密室大集合
All But Impossible!
ハヤカワミステリ文庫(入手難)

20篇の密室や消失ものなど不可能犯罪を集めた、エドワード.D.ホック編のアンソロジー。
山羊の影     The Shadow of the Goat
ジョン・ディクソン・カー
カーといえば密室、密室といえばカーといわれるほどの、密室物の巨匠。本篇はごく初期の作品でバンコランもの。

役者シリル・マートンはパーティの席で鍵のかかった部屋から消えて見せると宣言、ほかの客達と口論となり実験することになった。
二階の石の部屋にこもることになり、3人の客が事前に部屋を点検し、秘密のドアなどがないことを確認した。蝋燭だけをつけた部屋にマートンを残し、全員が階段を降り、階段下のドアに外から鍵をかけた。
15分後ドアの中から銃声が聞こえ、外から鍵を開けて大急ぎで客達が階段を上ると二階には誰もいなかった。ちょうどそのころ、マートンが消えた家から15分ほどの別の家で殺人事件があった。
殺人事件があった家も中から全ての窓やドアに鍵がかけられていて、外からは誰も侵入できなかった。しかも目撃者の話からこの事件の犯人はマートンと思われた。密室から消えたマートンが、密室に入って殺人を犯したのだった。

クロワ・ルース街の小さな家     The Little House at Croix-Rousse
ジョルジュ・シムノン
メグレ警視でお馴染みのシムノンの密室もの。数百篇のミステリを書いたシムノンの唯一つの密室ものといわれる。


リヨンのルイジ・セチオニ医師の住居には、2つのドアと3つの窓があった。医師はイタリアからの亡命者であり、政治がらみの亡命であった。そして警察に医師の殺害を予告する手紙が来た。
警察では全てのドアと窓に一人づつ警官を着けて、外からの侵入を監視した。医師が外で食事をし、帰ってきて住居に入る。全ての見張りの警官は居眠りもせず持ち場も離れず、監視を続けた。
が、医師は殺された。夜中にピストルの弾を撃ち込まれたのだ。しかも部屋の中には銃器はまったくなかった。医師は自分以外誰もいない部屋、銃器のまったくない部屋で射殺されたのだった。

皇帝のキノコの秘密     The Problem of the Emperor's Mushrooms
ジェイムズ・ヤッフェ
ブロンクスのママシリーズで知られるヤッフェのもう一つのシリーズが不可能犯罪課のポール・ドーンのシリーズで、本篇はその第一作。ヤッフェ15歳の時の作品という。


ニューヨーク警察不可能犯罪課の刑事ポール・ドーンが、ボトル教授から聞いた話は古代ローマ帝国クラウディウス帝暗殺の話だった。
クラウディウス帝は神経過敏で、疑り深くて、自惚れ屋であった。毒見役が食べて1時間以上も経ってから、毒見役に異常がないのを念入りに確かめて食事をするほどだった。
その日も1時間経って毒見役に異常がないのを見極めて、好物のキノコ料理を食べた。すると気分が悪くなり、医師が呼ばれた。医師は当時の一般的な方法である鳥の羽での喉の洗浄を行なったが、それを受けたクラウディウス帝は更にもがき苦しんで、息絶えてしまった。いったいキノコ料理にはいつ毒が盛られたのだろう…

この世の外から     From Another World
クレイトン・ロースン
アマチュア・マジシャンであり、EQMMの編集長を勤めたロースンは、カー同様に不可能犯罪に情熱を燃やした作家である。この作品は親交のあったカーとともにドアや窓の隙間すら内部から封じられている真の密室に挑戦したもので、カーは「爬虫類館の殺人」を書き、ロースンは本篇を書いた。


富豪アンドルー・ドレイクが殺された部屋は窓とドアは内側から密閉されたうえ、窓にもドアにも内側に細長いテープ状に切ったハトロン紙で十文字に封印がなされていた。
ドアを打ち破るときにドレイクの娘エリナーとグレート・マーリニの友人ロス・ハート、それにガレット博士の3人が紙の破れる音を聞いていた。ドレイクは室内からガレット博士に来てくれるように電話して来たという。
室内ではドレイクが刺殺され、その傍らにワンピースの水着を着た女が倒れていた。女は霊媒でドレイクとともに降霊術を行なっているところだった。女が水着1枚だったのは、何も隠し持っていないことを証明するためであった。
それではこの女が刺したかというと、そうでもなかった。室内には凶器がなかったのだ。犯人は霊媒の女を気絶させてドレイクを刺し、中から封印をした部屋から出て行ったのだった。

鏡もて見るごとく     Through a Glass, Darkly
ヘレン・マクロイ
ヘレン・マクロイの長篇「暗い鏡の中に」の原作短篇にあたるのが本作品。マクロイは30作以上の長篇を書き、MWA会長も勤めた本格派。


私立のブリアトン学校に勤めていたフォースチナ・クレイルはドイツの伝説ドッペルゲンガーやイギリスの伝説生霊に相当する人間であったらしい。
召使がほぼ同時刻に違う場所でクレイルを見、2人の女生徒が2階の部屋と中庭に同時に存在するクレイルを目撃し、さらに校長のミセス・ライトフットが階段を下りていてクレイルに追い越され、後ろから声をかけると下からではなく階段の上からクレイルの声がし、本人が下りてきた。
構内にはクレイルの噂が立ち、父母の間でも問題になり、クレイルはついに解雇された。聞けばクレイルは前に勤めていた学校も同様の理由で解雇されたらしい。本当にクレイルには生霊が乗り移っているのだろうか…

七月の雪つぶて     Snowball in July
エラリー・クイーン
パズラーのクイーンが列車の消失に挑戦。本篇はクイーン検察局の中の一篇。


カナダからからニューヨークに向かう急行列車「七月の雪つぶて」号。列車にはギャングの元情婦で、ギャングの犯罪の証拠を握る女が変装して、警察の護衛のもとに乗車していた。ギャングに捨てられた情婦は警察に保護を求め、ギャングへの復讐のために法廷で証言する気になったのだった。
これを知ったギャングは元情婦を奪い返す挙に出るのは必至だった。エラリーたちは車を駆って、途中のワポーグという小駅で元情婦を待ち構え、列車から車に移す計画だった。
ワポーグに着き列車を待つエラリーたちだったが、予定時刻を過ぎていつまで待っても列車が来ない。1つ手前のマーミオンの駅は定刻に出たという。マーミオンからワポーグまでは6分。
おかしいということでエラリーたちはマーミオンに向かい線路沿いに車を走らせた。両駅間は直線で遮るものは何も、トンネルも鉄橋も川も森もなく、引込み線もなかった。列車はどこにも見当たらなかった。
もう一度戻ってみてみたが同じ。「七月の雪つぶて」号は元情婦とともに消えてしまっていた。

ニュートンの卵     The Newtonian Egg
ピーター・ゴドフリー
病院に腸結核で入院した男は、院内で看護婦を見初め、お互い好き合って結婚することになった。その結婚の朝、その患者は朝食のゆで卵を割ってスプーンですくって食べたとたんに死んでしまった。青酸による中毒だった。誰がいつ、どうやって卵の中に青酸を入れたのだろうか…

三重の密室     The Triple-Lock'd Room
リリアン・デ・ラ・トーレ
ピカデリーの近くにある建物の二階で殺されたのはウインウッド夫人。上流階級として乗り出すためにジャマイカからロンドンに出てきたばかりだった。
夫人が殺されたときに、そのドアには上下にボルトが二つかかり、さらに掛け金も掛かっていた。窓にも内側から鍵がかかり窓の外は取っ掛かりもない垂直な壁であった。
こんなに厳重にしたのは、夫人が多くの宝石を所持していたからで、建物に住むほかの住人に進められたからであった。住人たちは事件直前まで夫人の部屋にいて、室内を点検して人が隠れていないことを確認し外に出た。
背後にボルトをかける音を聞いて、安心して皆は部屋に引き揚げたが直後に夫人の悲鳴が聞こえたのだ。ドアは破れず、結局住人の一人であったサーカスの綱渡りが3階から綱を降ろしてガラスを割って夫人の死体を発見した。
厳重な密室に犯人はいかにして出入りしたのだろうか…

真鍮色の密室     The Brazen Locked Room
アイザック・アシモフ
アシモフはSF界の巨匠であるが、SFミステリや「ABAの殺人」などの本格ものも書き、「黒後家蜘蛛会」シリーズなどでも有名。本篇はファンタジーSFものの作品。


悪魔と契約を結んだイジドー・ウェルビー。10年間悪魔に願いをかなえてもらった代りに、その後は悪魔界の幹部候補生となる契約だった。
契約後10年が経ち、気づくとウェルビーは真鍮色の密室の中に閉じ込められて悪魔と向き合っていた。約束を果たすように迫る悪魔に対し、騙されたと知ったウェルビーはある方法で密室を抜け出た…

火星のダイヤモンド     The Martian Crown Jewels
ポール・アンダースン
SF作家ポール・アンダースンによるシャーロック・ホームズのパスティーシュ。火星のシャーロックの活躍や如何に。


火星の衛星フォボスの宇宙空港に着陸した無人宇宙貨物船。この貨物船には火星から地球に貸し出された、火星の宝冠ダイヤが返却されるために積まれていた。この宝冠ダイヤは天文学的な価値があり、それがために地球で展示されているときにも、再三盗難未遂にあっていた。
今回火星に返却されるにあたっても、直前まで宇宙船に積み込まれることは知らされず、積み込むときにも作業員は厳重に監視され、その後身体検査もされていた。
その後、無人貨物船は2百数十日かけて経済軌道を進み、今回フォボスにやってきた。フォボスの空港では、待ち構えた警官隊が誰よりも先に船内に入ったが、宝冠はそれを入れたケースごと消えていた。
地球を飛び立って火星まで、宇宙船に近づくことも不可能だし、近づいたとすれば軌道が狂ったり、時間が遅れたりするなど何らかの痕跡があるはずだが、それらは一切なく近づいた者がないのは確かであった。
宝冠ダイヤはその価値も莫大だったが、このままでは地球と火星の間の関係に大きな悪影響が及ぶことは確実で、早く宝冠を見つけ出さなければならなかった。

子供たちが消えた日    The Day the Children Vanished
ヒュー・ペンティコースト
コラムニスト、書評家、作家といくつもの顔を持つペンティコーストの唯一の不可能犯罪ものだそうです。


クレイトンの町からレイクビューの町まで、片側は湖、片側は切り立って崖という2マイルの道がついていた。レイクビューからクレイトンに向かってスクールバス代わりの9人乗りのステーションワゴンが、この道に乗り入れた。
レイクビューの学校はいつも通りの時間に出たし、レイクビュー側の道の入り口にあるガソリンスタンドでは9人が乗ったステーションワゴンが目撃されている。ところがこのワゴンはクレイトンに着かなかった。
道の湖側にはガードレールが切れ目なく続き、どこにも傷一つないから湖に転落したわけでもない。しかも湖には氷が張っていて、氷はどこも割れていなかった。
しからば山側はというと1箇所を除いては崖が続き、1箇所だけ捨てられた大理石の石切り場へ登る道があるが、数メートルで道は切れ、ワゴンはおろか人の入った形跡もなかった。
もちろんワゴンは引き返したわけでもなく、一本道の途中で9人の子供と1人の運転手とともに、消失してしまったのだ。しかもその裏には…

魔術のように    As If By Magic
ジュリアン・シモンズ
ブライトスタンド桟橋は球根の形をした桟橋で、その中央には喫茶店や人形芝居の小屋や遊技場があって、休日のその日は多くの人で賑わっていた。
そこにデッキチェアを出して眠っていた大男に、小男がいきなりナイフを突き立てた。小男はそのまま歩いてどこかに消えてしまった。
桟橋から出ていないのは確実だし、桟橋の中の人並みに紛れてもいなかった。さりとて、喫茶店や人形芝居、遊技場の経営者たちは誰も入ってこないと証言。小男はどこかに消えてしまった。

不可能窃盗    The Impossible Theft
ジョン・F・スーター
有名人のサインや署名をコレクションし、展示ケースに入れているマニアックな男ドナルド・タップ。ある日旧友のロバート・チザムが訪ねてきて、15分間一人にしてくれれば署名の一つを盗み出してしまうと挑戦する。
タップは15分間チザムをコレクション・ルームに一人にした。その間にチザムはもっとも価値のある署名を盗んだ。15分後に部屋中を調べたタップは、その後チザムを素裸にして調べ、ありとあらゆる可能性を考えて署名を捜したが、どこからも出てこなかった。チザムは盗んだ署名をどこに隠したのだろう。

ストラング先生と博物館見学    Mr.Strang Takes a Field Trip
ウィリアム・ブルテン
ウィリアム・ブルテンはホックと並び短篇の名手で、「〜を読んだ男(女)」のシリーズとハイスクール教師のストラング先生を探偵役とするシリーズがあります。


生徒を引率して博物館にやって来たストラング先生。最上階の哺乳類展示室から見学を始めたが、生徒が2人となりの「西半球とインディアン」という展示室に勝手に入ってしまう。
その直後「西半球とインディアン」展示室から「ない」という男の叫び声。ストラング先生が「西半球とインディアン」展示室に入ると係員が壁にかけられていた高価な仮面がなくなっていると騒いでいた。
しかも、この部屋に今日はじめて入ったのは2人の生徒。疑いは2人の上にかかってしまったが、生徒の無実を信じるストラング先生は…

お人好しなんてごめんだ    No One Likes to be Played for a Sucker
マイクル・コリンズ
オッソ&ビタンザ商会の共同経営者であるオッソ氏は、相棒のビタンザ氏が何か企んでいると、私立探偵フォーチューンに相談してきた。
フォーチューンはビタンザ氏の企みを探ることにしたが、ビタンザ氏はその夜密室の中でピストルで殺されてしまう。ビタンザ氏が殺されていた隣の部屋にはオッソ氏が閉じ込められていた。
オッソ氏も暴漢に襲われて、有無を言わせず閉じ込められたという。だが警察はオッソ氏の狂言として、オッソ氏を逮捕してしまう。

アローモント監獄の謎    The Arrowmont Prison Riddle
ビル・ブロンジーニ
死刑囚アーサー・ティーンズデイルの絞首刑の執行は、嵐の日の夕方薄暗い中で行われた。ティーンズデイルは黒い頭巾を被らされ、両脇を看守2人に支えられてよろよろと13階段を上り、やがて首にロープがかけられた。
落し蓋が開きティーンズデイルが落ちた。規則により看守の一人がぽっかりあいた穴から下を覗くと、そこには頭巾と靴とがあるだけで、ティーンズデイルの体は影も形もなかった。
看守の驚愕する様子に、少し離れた立会人席の所長以下が駆けつけてこの様子を見て呆然とする。すぐに警報が発せられたがティーンズデイルの姿は監獄内から跡形もなく消えてしまった。

箱の中の箱    Box in a Box
ジャック・リッチー
ドアと窓に中からボルトがかかった広い寝室。そこから銃声が聞こえて、邸内にいた甥や姪が駆けつけるがドアはもちろん開かない。庭に回って窓ガラスを破り、ボルトをはずして寝室に入った。室内では金持ちの夫人が銃で撃たれ、その銃を握った夫が近くで倒れていた。
警察が来ると夫は、妻を撃ったのは自分ではないと主張。ウイスキーソーダを飲んだら眠くなってしまい、起こされたときには妻殺しの容疑者にされていたというのだ。
調べてみるとウィスキーソーダや夫の体内からは多量の睡眠薬が検出された。警察は夫の言うこともまんざら嘘ではないと考え始めた。だとすれば密室殺人ということになるわけだが…

魔の背番号12    The Number 12 Jinx
ジョン・L・ブリーン
大リーグ、ロサンゼルス・サーファーズに移籍してきたハニー・リードはトラブルメーカーとしても有名で、入団早々背番号12を希望した。
サーファーズでは背番号12は過去2人の選手がつけていたが、その選手がピーンボールを受けて死んだり、地下鉄に飛び込んで自殺したりして、縁起が悪い番号とされ以後誰もつけなかった。
暫く前に自分のユニフォームを紛失した投手が12の背番号のユニフォームを間に合わせで着て出場したことがあったが、その投手はその時にできた傷が元で引退に追い込まれた。
この縁起が悪い番号をリードが希望すると周囲は止めたがリードは聞かない。最終的にはオーナーの決断で12を付けることを許されて、リードはオープン戦に出た。
そのオープン戦の最中にサーファーズの捕手が投球の判定に抗議して退場処分になり、ロッカールームに引き上げた。暫くして今度は一塁を守っていたリードが、アウトセーフの判定に猛抗議してやはり退場となった。
ところがリードはダッグアウトからロッカーに通じる通路の途中で消えてしまったのだ。ダッグアウトから通路に入る姿は多くの選手に見られている。ロッカーには係員がいたし、前に退場になった捕手もいた。
捕手はリードはロッカーに来なかったといい、係員も捕手が戻っただけだと証言した。魔の背番号12は、今度は選手を一人消してしまったのだった。

奇術師の妻    The Magician's Wife
J・F・ピアス
奇術師マリーンが妻をいつものように棺に入れた。妻は棺の両脇、両端に開いている窓から頭と足と腕を伸ばした。そして棺の前でいつものように爆発と煙。その一瞬、棺は煙に包まれて見えなくなったが、同時に奇術師の妻は消えていた。
実は、この奇術のネタは棺の下に助手を勤める妻の妹がいて、頭と腕は妻のものだが、足は助手のもので中間の胴の部分は空洞になっている。爆発の後に胴の部分を鋸で切るのだが、その前に妻が消えてしまったのだ。
しかもこの日はアクシデントで助手は棺の下におらず、妻が仕方なく足も出したらしいということまではわかった。いったい妻はどこに消えたのだろうか…

有蓋橋事件    The Problem of the Covered Bridge
エドワード・D・ホック
ホックは短篇の名手として知られ。サム・ホーソーンやレオポルド警部、怪盗ニックなど多くのキャラクターを生み出した。そして、キャラクターたちは多くの不可能犯罪を扱った。本篇はサム・ホーソーンシリーズの第一作。


2台の馬車が少し離れて雪道を走っていると牛の群れが2台の馬車の間を横断し始めた。牛の群れの横断が終って後ろの馬車が再び前の馬車を追い始めるとその先の有蓋橋で馬車は突然消えていた。
橋の入口までは馬車の轍がクッキリついていたが橋の出口から先の雪には何の跡もついていなかった。そして前の馬車の主は翌朝はなれた場所で死体で発見された。橋での馬車消失の謎。
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