血ぬられた海域
トクマ・ノベルズ(入手難)

中島河太郎による海洋ミステリのアンソロジー。必ずしも本格ものばかりではない。
港がらす   
陳舜臣
「中国の歴史」などで有名な陳舜臣は、昭和36年「枯草の根」で江戸川乱歩賞を受賞した推理小説作家でもある。
神戸港の片隅で荷後屋、つまり荷揚げの途中で零れ落ちた品や海中に没した品を拾い集め、時には船員とグルになって商品を掠め取るなどもして生活している連中は、時に海中に沈めた密輸品の回収を頼まれる。
沖仲士だったが怪我をして荷後屋の番頭のようなことをして暮らす庫吉のところに、旧知の外国船の船員が訪ねてきて、秘密で舟を出してくれと言ってきた。
引き受けた庫吉、深夜に約束の時間船を仕立てて荷後屋の女主人とともに船員を迎えに行く。ところが船員は現れず、怒って引き揚げる2人。
翌朝の新聞で船員が殺されたとの記事がでた。昨夜はこれなかったはずである。さらに船員が残した週刊誌に謎の暗号。それを見て荷後屋の女主人は密輸品の隠し場所だというが…

うたかたの航跡    
戸川昌子
シャンソン歌手でありタレントでもある戸川昌子は、江戸川乱歩賞も受賞した推理作家でもある。


フランスマルセイユから東洋に向かう豪華客船の特別室。そこに乗り合わせた若い女と皇族のご落胤を自称する中年女性。その2人は共通の人間を通して見えない糸が繋がっていたようだ。特に中年女性の父の皇族が大正期に車の事故で死んだ場所は、若い女が船に乗る前に九死に一生を得た場所と同じところだった。

戦艦陸奥    
山田風太郎
太平洋戦争中に瀬戸内海の柱島錨地で起きた戦艦陸奥の爆沈事件。現実にあった話で、海軍が調査委員会を作って原因を調べたがその原因は謎のまま。陸奥爆沈の真相とは…

オートレック号の秘密    
西村京太郎
トラベルミステリとして多作に励む西村京太郎の初期の作品。


フランスの貴族オートレック侯爵の所有する豪華ヨットオートレック号が、日本の実業家樋口要一郎に買い取られた。伊豆西海岸のS港で海上ホテルとして使用する計画で、買値は9億5千万。
ヨットが日本に廻航されS港に向かうとき30数人のマスコミ関係者が招待され、S港まで取材を兼ねて航海することになった。
新聞記者の関根と雑誌記者の大野もその中にいた。二人は知合いで、船内で偶然に出会ったのだ。大野は関根に、樋口が9億5千万も金を出して船を買ったのには何か裏があると言った。
S港は交通不便なところで観光地でもなく、そんなところに海上ホテルなど開業しても儲かるわけもなく、第一オートレック号は7億円程度が相場であり、けちな樋口がそれを大きく上回る金を出すこと自体おかしいというのが根拠であった。
その時はそれで別れたが夜になって自分の船室にいた関根のところに大野から船内電話が掛ってきた。大野は秘密を掴んだらしい口ぶりで話を始めたが、直後にうめき声がして電話が切られた。
変事を直感した関根が大野の船室に行くと中から鍵がかけられていた。樋口に事情を話し斧で船室の扉を壊して入ると、室内に大野の姿はなく窓が開いていた。
そして床には血に染まった財布が落ちていた。船内がくまなく捜索されたが大野の姿はなく、犯人によって殺され海に投げ込まれた公算が強くなった。
オートレック号は停船して捜索したが大野は見つからず、S港に向かったが、翌朝早く漁船によって大野の水死体が見つかった。大野の死は、船上密室殺人事件となったが…

黒潮殺人事件    
蒼井雄
戦前から戦後すぐにかけて、クロフツばりのアリバイミステリを書いた、当時としては珍しい作家蒼井雄。この作品は昭和22年「新探偵小説」に発表されたもの。


伊勢志摩の海は多くの入り江が入り組む海岸である。交通不便な頃は陸路を行くより海上交通が主で、港々を結ぶ定期船も運航していた。その定期船に警視庁捜査一課の竹崎元警部の姿があった。
竹崎は船内で親しくなった同船の客がいたが、その客は竹崎より先に長島港で下りていった。時刻は黄昏時、夜6時ごろのことであった。
翌朝、夜の白々明けに竹崎は連続する汽笛で目覚めた。見ると定期船の航路の先に釣り舟が1隻2人を乗せて漂っていた。こちらの汽笛を聞いても何も反応せず、仕方なく定期船は釣り舟すれすれに航路を取った。そしてすれ違い際、定期船の船員を乗客も釣り舟を見て驚いた。2人は死んでいるとしか思えなかったのだ。
定期船はエンジンを止め、釣り舟を曳航し、次に入る浜島港で引き渡した。やがて警察がやってきて調べを開始する。
竹崎は身分を明かしたが、その有名は警察関係者の知るところで、責任者から協力を頼まれた。捜査によれば、2人の死因は青酸カリによる中毒死、そしてうち1人は昨夜長島港で下船した竹崎が知合った男だった。
しかし長島からここまでどうやって男はやってきたのだろう。たかが釣り舟が途中で定期船を追い抜けるはずはないのだった…

天国は近きにあり    
高橋泰邦
ガードナーやマクベインの作品の翻訳の傍ら、海洋ミステリを主に発表した作家。本作品は昭和42年「推理界」に発表。


太平洋戦争中陸軍の徴用船時川丸は南シナ海を本土に向けて航行中、敵潜水艦の雷撃を受け船尾を吹き飛ばされ航行不能に陥った。
南方からの引揚者たちを筏やボートに乗せて総員退去させ、船長ら数人が漂う鉄の塊に残った。すると一度離れたはずの筏が戻ってきて、数人の引揚者や輸送責任者の陸軍中尉、舟の火夫や水夫長などを船に戻した。
時川丸が沈む前に食料や水を確保して筏に積み、再び船を離れる算段で戻ったという。総勢は9名、さらに船長ら時川丸内の生存者が4名で合せて13名。
それに缶詰や塩漬けの肉、飲料水を積み込むとすれば筏1つでは足らない。唯一拳銃を持つ陸軍中尉は、幾人かを選抜して筏に乗せ、残りは船と運命を供にせよと冷酷にも告げた。
誰が残り、誰が筏に乗るか、それは数時間後に決めるという。船内の人間達の目が変わってきた。それに対し船長ら冷静な人間もいた。そして漂う鉄の塊時川丸の上で繰り広げられるたのは…

カロリン海盆   
香住春吾
戦後すぐにミステリを発表し、関西探偵作家クラブの初代書記長になった。一時ミステリから離れ放送作家として活躍したが昭和50年代に入って再びミステリを発表。本篇は昭和24年「別冊宝石」に発表された。


太平洋戦争中サイパンを出航した海軍の徴用船は…
1.昨日16時、本船はパラオへの航路をポナペに変更した。
2.事務長はコースの変更に当惑の態度を見せた。
3.事務長、水夫長、火夫長、賄長の4名が、20時ごろから2時ごろまで花札遊びをしながら飲んでいた。花札遊びでは事務長が大負けした。
4.2時過ぎ、水夫長は部屋を出た。続いて事務長、火夫長も出て賄長だけは残って寝ていた。
5.4時すぎに二等運転士が船首甲板で水夫長の死体を発見、死体の胸には事務長のシーナイフが刺さり、悪魔の面とされる現地の木彫りの面が死体の顔に乗せてあった。
6.事務長、火夫長、賄長の3人にはアリバイはない。
それに対する疑問点は、犯人は何故死体を遺棄しなかったか?死体に何故面を被せたのか?そして犯人は…

H工作船    
赤松光夫
オホーツク海のサケ・マス船団の1隻サントス丸から機関長新城重吉が海に転落、おりからの台風の暴風雨もあって捜索は難航し、ついに打ち切られた。
その悲報が釧路で待つ重吉の妻小夜子の元に届く。小夜子は入籍して1ヶ月にしかならなかった。小夜子は美貌の妻ではあったが、結婚後も釧路でホステスをしていた。
そんな小夜子だから重吉の死にも表面は悲しんでいたが、重吉をよく知る益木次郎が接近してくると平気で体を与えた。益木は小夜子と同衾しながらサントス丸がソ連のスパイ船であり、重吉はソ連からスパイの任務を負っている可能性があることを示唆した。
重吉はサントス丸の前に乗り込んでいた船、第三黄金丸は領海侵犯でソ連に拿捕され、重吉も同じく乗り組んでいた益木もサハリンの収容所で暮らした経験があったのだ。
益木はそのサハリン時代に重吉はソ連のスパイに雇われたというのだ。そして小夜子の歓心を買うために、その事実を元にサントス丸を雇った漁業会社と交渉をすると言い出した。

海の殺戮    
梶山李之
産業界を舞台とした推理小説や官能小説を多く発表した梶山李之の昭和42年発表の作品で、梶山氏らしい仕上がりになっている。


トップ屋あがりの作家がクラブのホステス小久保光枝から父暁の死の真相を探ってくれと頼まれる。暁は農林水産協会という団体の常務理事をしていたが、行方不明となり数日後に葉山海岸に死体となって流れ着いた。
死因は扼殺、殺されてから海に投げ込まれたのは確実であったが、警察の捜査は難航し犯人はあがっていなかった。暁は死の直前まとまった金、それも5千万という大金が手に入ると家族に告げていたという。
光枝に頼まれた作家が暁のことを探り出すと怪電話がかかり、暁の死を探るのを中止せよと脅迫してきた。

貨客船殺人事件   
鮎川哲也
本格派の第一人者鮎川哲也の作品で、犯人当て推理小説とした書かれたもの。


東京から函館に向かう貨客船北斗丸。そこに乗り合わせた乗客の間で殺人事件が持ち上がる。殺されたのは北身幸枝。幸枝は出航した夜、乗客の一人小笠原旭斎という占い師から、翌日の死を予言されていた。
深夜、SOSを受信した北斗丸は救助に向かうことになる。そのために函館入港は1日以上遅れることになった。したがって予言どおりなら幸枝は船上で殺されることになる。
さらに夜遅く幸枝が夫の植木職人と船室で大喧嘩をし、別室に入れてもらって一人で寝た。翌朝起きてこない幸枝を心配した一人が、ふと甲板の陰の物入れようの木箱から幸枝の服がはみ出ているのを見つけ、その箱を開けてみるとそこには幸枝の死体があった。
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