続・13の密室
講談社(入手難)

渡辺剣次による名アンソロジー。巻末に天城一の研究論文密室作法の分類表があとがきがわりにつく。
何者    
江戸川乱歩
本作は足跡のトリックをメインに据えた作品。昭和4年時事新報掲載。
鎌倉の海沿いにある結城陸軍少将の邸では、その夜少将の誕生日の祝宴が催された。宴は何事もなく終わり、招待客の中には変える者もあり、また思い思いに過ごす者もあった。
少将の一人息子である弘一は、日課になっている地方新聞の小説原稿執筆のために、少将の書斎に入っていった。すぐに書斎から叫び声が聞こえて、ピストルの音がした。
皆が駆けつけると弘一は書斎で足を撃ちぬかれて倒れていた。一階にある書斎の窓は開いており、弘一によれば何者かが書斎を物色しており、弘一が入っていくといきなり発砲し、窓から逃げていったという。
警察がやってきて調べると、窓外から土塀を乗り越えさらに少し先の古井戸まで往復の足跡がついていた。しかし不思議なことに古井戸から先の道路までは足跡一つついていなかった。
書斎から消えていたのは金の万年筆、金の置時計、金のタバコ入れなど金製品ばかりで、机の上に乗っていた少将の札入れはそのままであった。
警察は窃盗犯を追い、足跡の謎はそのままにして、近くに住む黄金狂の精神障害者を犯人として逮捕。だが弘一は窃盗は見せ掛けで、犯人の目的は弘一を殺すことだという。そして犯人を指摘し、足跡の謎も見事に解いたのが…
抗鬼    
大阪圭吉
戦前の本格派大阪圭吉の作品。この作品は昭和12年雑誌「改造」に発表されたもの。
室生岬の突端にある中越炭鉱会社の滝口坑は、埋蔵量600万トンといわれる有力な炭鉱で、海の底にまで達していた。その採炭場の一つで火災が発生した。石炭運搬用のトロッコが脱線し、トロッコに吊り下げられた安全燈が倒れて炭塵に引火したのだ。
その採炭場は峯吉とお品夫婦のもので、火災発生と同時に二人は外に逃げ出したが、峯吉が逃げ遅れてしまった。峯吉が採炭場から脱出する前に、駆けつけた監督らによって防火扉が締められ、扉の隙間は粘土で目塗りされてしまった。
必死で泣き叫ぶお品や隣の採炭場にいる峯吉の両親の懇願もむなしく、峯吉は火災の中に閉じ込められてしまったのだ。
防火処置が終了したので炭鉱では普段通りの採掘が続けられ、防火扉の前には技師が一人残って様子を監視していた。その技師が石塊で殴り殺されているのが発見された。
事件は現場責任者の係長に通報され、技師は峯吉を閉じ込めた一人であるために、お品と峯吉の両親、それにお品の兄に疑いがかかり、係長の事情聴取が始まった。
この事情聴取が終ろうとする頃、今度は工手が同じく石塊で殺された。工手は技師とともに峯吉閉じ込め一人であるが、今度は峯吉の関係者には全員アリバイができてしまった。
閉じ込められたはずの峯吉が鬼となって、自分を閉じ込めた人間に復讐を図っているのだろうか。峯吉を閉じ込めた人間はもう一人いた。防火扉を閉めた監督だった…

赤いネクタイ    
杉山平一
詩人であり映画評論家でもある作者には、この作品と「星空」という暗号小説の2作のミステリがあるという。


山頂にあるホテルで起きた密室事件。ホテルの部屋の中からうめき声が聞こえたのを従業員が聞きとがめるが、部屋には内側から鍵がかけられて開かない。
支配人を呼んでドアを破って入ると、赤いネクタイをした男が傷を負ってベッドに倒れていた。驚いてその体を目の前の医務室に運び入れて、医者を手配したまではよかったが、医者が着てみると医務室には男の姿がない。
従業員や支配人の証言から男は医務室に運ばれたときには既に死体となっていたようだ。今度は誰かが死体を盗んだのだ。
その死体は翌朝、ホテルの裏手の渓流から発見された。死体には鮮やかな赤いネクタイがあった。密室殺人を行い、手間をかけて死体を盗む奇妙な犯人とは…

密室の魔術師    
双葉十三郎
映画評論家の作者は、終戦後すぐに6作の本格ものを書いただけで、再び評論活動に戻ったという。


財界人谷崎庄之助は奇術や謎々が趣味であったが、酒に酔うと二重人格みたいになって人を困らせて楽しむところがあった。
ある夜、谷崎氏の別荘のある町の演芸場で奇術の催しがあり、谷崎氏は甥の五郎七や遠縁の娘静子、静子の婚約者の僕と出かけていった。
その夜は谷崎氏は相当酒を飲んでおり、演芸場でも悪い癖が出て、奇術師が奇術をやっているそばから大きな声で種をばらしてしまった。
周りの観客はそのたびに失笑し、奇術師は困惑。最後に黒装束で出て来てトランク抜けの大魔術を自信満々でやろうとした時にも、谷崎氏は奇術にかかる前に種を割ってしまった。奇術師はさすがに怒って舞台を放棄してしまった。
翌日の夜その谷崎氏が密室の書斎で、黒装束の奇術に殺された。書斎の机の上につっぷした谷崎氏、そこに襲い掛かる黒装束が書斎のフランス窓越しに花火のために庭に出ていた一度の目に映ると大騒ぎとなった。
フランス窓は内側から鍵が掛り、屋内に回った人間はドアをがたがたゆするがこれも中から施錠されていた。さらにもうひとつある窓も内側から錠がかけられているらしく、開かなかった。
フランス窓をはしごで叩き割ってやっと一同が中に入ったが、黒装束は消えうせていた。昨夜谷崎氏に大恥をかかされた奇術氏が復讐に来たのだろうか…

密室のヴィナス    
渡辺啓助
大金持ちの丹野未亡人は自身も実業家であり、今までの屋敷を売り払い、より広い屋敷に移り住んだ。その引越しの夜のことであった。
引越しが住んで、業者が引き揚げると広壮な屋敷には未亡人のほかに、白豚とあだ名される住込み女中の玉枝とじいやの為蔵の3人きりとなった。
昼間の疲れがたまったのか未亡人は早くから寝室に入り、その真下の部屋で玉枝と為蔵が寝た。為蔵は酒が入りすぐに寝入ったが、玉枝は様子が違うのでなかなか寝付かれなかった。
その玉枝がふと天井を見上げるとしみがどんどん広がっている。未亡人が寝室で花瓶でも倒したのに違いない。玉枝は為蔵を起こし二人で未亡人の様子を見に寝室に行った。
すると布団の中には未亡人が死んでいた。ピストルによる射殺であった。天井のしみは花瓶の水で、その花瓶は元に戻されて花も生けてあった。犯人は冷静に行動したのだ。
未亡人の部屋には鍵などついていなかったが、屋敷は全て内側から戸締りされ、屋内の捜索でも怪しいものは何も見つからなかった。つまり屋敷自体が大きな密室になっていたのだった。

二重密室の謎    
山村正夫
中学生のときから小説を書いたという早熟の山村正夫。この作品も18歳のときのもの。


未来派の彫刻家であり舞台装置も手がける蝋川には、精神病の噂もあって常に顔中を包帯で覆っていた。戦時中まで司祭館であった建物に住み、周囲とも没交渉で気味悪がられていた。
その?川の住いで密室の事件が起きた。二階の?川のアトリエから銃声がして、駆けつけてみると蝋川が銃で撃たれて死んでいた。部屋は密室で、指が動くように作られたブロンズ像に拳銃が握らされて、電線が張られ自動発車装置になっていた。
銃声はその仕掛けで発生したことは間違いないが…

妖婦の宿   
高木彬光
高木彬光は「能面殺人事件」「刺青殺人事件」で終戦直後にデビューした息の長い本格派。この作品は、昭和24年の探偵作家クラブ新年例会の犯人当てゲームの出題作品。


伊豆のホテルの離れ、そこにはホテルの実質的なオーナーで妖婦である八雲真利子の部屋があった。真利子は思い出したようにホテルに男友達を連れてきては離れに泊まっていくのだ。
ある日、真利子は東京から歌手の花村と映画俳優の月川を引き連れてやってきた。そしてその時ホテルには近藤啓一と変名した神津恭介も泊まっていた。
その日の朝、前もって真利子の荷物がいくつも届いたが、大型のトランクからは真利子の蝋人形が出てきた。しかもその蝋人形の胸には深々と短剣が刺さっていた。殺人予告ととっさにひらめいた支配人は、神津に真利子の護衛役を頼んだ。
真利子がやってきて神津を紹介され、その夜神津も離れに一室を宛がわれ泊まることになった。離れは6室からなる一棟建てで中央に廊下、右側にはホテルの形式上のオーナーで真利子の愛人小関氏の部屋、真利子の専用室、そして月川の部屋。
一方反対側は応接室、神津の部屋、花村の部屋の順であった。その夜殺人予告に脅えた真利子は部屋に鍵をかけ、さらに部屋の外には3時間交代で花村、神津、月川の順で朝まで寝ずの番をすることになった。
真利子の部屋は小関の部屋と廊下にそれぞれドアがあったが、どちらにも中から鍵がかけられ、窓も同様に施錠された。ところが朝方になって、部屋の中で真利子が死体となっているのが見つかった。犯人は神津の目の前で、厳重な監視付きの密室にやすやすと出入りしたのだ。

「罪ふかき死」の構図    
土屋隆夫
信州在住の本格派である土屋隆夫のデビュー作。昭和24年「宝石」の懸賞募集の短篇の部に一席入選。


画家泉弘人がアトリエで毒を仰いで死んだ。かつては美術界の寵児であり、次々と斬新な作品を発表した弘人であったが、最近は画家として行き詰まり、絵もほとんど書かず凋落の一途をたどっていた。
さらに、弘人の死の三ヶ月前に妻の道子が「わたしの自殺は罪ふかい死でございます」と謎の言葉を残して自殺していて、それが弘人にも相当こたえたらしい。
アトリエは母屋から離れた独立した建物で、当時はドアも窓も内側から鍵のかかった密室状態であった。しかし、弘人の姪智子は現場の状況から伯父の死は自殺ではないと主張した。

妖女の足音    
楠田匡介
トリックメーカーとして有名な楠田匡介の円熟期の作品。昭和27年「宝石」に掲載された。


雪の北海道、浴室でこの家の主人が死んでいるのが見つかった。朝早く風呂に入っていつまでも出てこないので女中が見に行ったところ、室内で足を滑らせて死んでいた。医者が呼ばれたが既に手遅れで、事故と片付けられたのだが…

みかん山   
多岐川恭
のちに江戸川乱歩賞、直木賞を受賞する多岐川恭は新聞記者出身。本篇は記者時代の昭和28年「宝石」の懸賞入選作。


南国のある市のみかん山は市内K公園の裾にあって、その展望台からの景色は油絵のようだった。今その展望台に3人の旧制高校生がみかんを並べて食べていた。みかん山の持ち主笹野家の娘早苗が3人のためにみかんを運んで来る。
すると山のふもとの笹野家に3人と同級の矢坂がマントを翻しながら入っていくのが見えた。矢坂と早苗は好きあった中で、皆そのことを知っているので、早苗をからかい、早苗は早苗で一目散に家に向かった。
少しすると早苗が家に入っていくのが展望台からよく見えた。直後の早苗の悲鳴。駆けつける3人。早苗の家の土間には心臓をナイフで刺された矢坂の死体が転がっていた。
矢坂の死は他殺と断定されたが、展望台から見ていると正面から犯人の出入りはなく、残る唯一の入口は裏手だけだったが、そこに通じる道からは、もう一人の同級生谷が早苗の家に向かっていた。
谷の証言では早苗の家から出てきたものは誰もなかった。早苗の家は衆人環視の状態にあったのだ。そして、そこに入った矢坂は何者かに殺されたが、犯人は影も形も見えなかった。

明日のための犯罪   
天城一
本業が数学者であり、独特の文体で余技に執筆する天城一は、熱烈なファンを一部に持つ作家で、密室・アリバイ・不可能犯罪物の短篇を主に発表。本篇は昭和29年雑誌「宝石」に発表されたもの。


名家名寄邸の居間で、邸の主名寄篤が殺された。そのときは停電で、居間に篤の先妻の妹で同居している朱実が入ったところ、稲妻が光り女が篤を刺すのが見えたと言う。
朱実はそのまま気を失ったが、居間のフランス窓の外には女の靴跡が雨上がりの土の上に続き、なんと庭の中央で消えていた。篤を刺し殺した犯人は空中に消えてしまったのだろうか?

水色の密室   
斉藤栄
斉藤栄は昭和41年に「殺人の棋譜」で乱歩賞を受賞した。わが国有数の多作家として現在も活躍中。


多摩田園都市の落ちついた住宅で起きた密室殺人。殺人の場所はサンルームで、サンルームの中で昼寝をする習慣の被害者は、サンルームを聖地のように考え、出入口や窓には全て中から鍵をかけていた。
その中で被害者は紐状のもので絞殺されていたが、凶器は発見できなかった。そして被害者は殺されたときに多量の睡眠薬を飲んでいたことが判明。発見者は被害者の妻であったが鍵がかかったサンルームにどうすることもできず、人を呼んだという。
さらに現場は被害者の趣味で、調度は水色に統一されていた。被害者は水色の密室で殺されたのだった。

大密室   
佐野洋
昭和33年に文壇デビューした佐野洋はその後多くの推理小説を発表したが、この作品は昭和46年に「オール読物」に掲載された作品。


自由楽器N工場付属研究室内にある第4研究室が事件の現場であった。その部屋は無響室と呼ばれ、二重のドアを締め切ってしまうと外部の音は一切遮断され、内部の音も室内で吸収されて外部には一切洩れない部屋であった。
大晦日の日、主任研究員土田を訪ねて男が一人やって来た。その男吉川がいうには土田に来るように言われたとのことで、取り次いだ研究補助員河西紀子は吉川を土田がいる第4研究室に案内した。
2人が研究室に入ると外から電気が消されドアが閉じられた。残念ながら中から開ける手段はなく、真の闇の中で2人は途方にくれた。
40時間後、研究室に忘れ物をした土田がドアを開くと衰弱した吉川と吉川のハンカチで絞殺された河西紀子の死体が見つかった。吉川は殺人容疑で逮捕されたのだが、精神的に追い詰められた状態で何も覚えていないと言い張る。いったい真っ暗な密室の中では何が起きたのだろうか…

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