下り”はつかり”
カッパ・ノベルズ(入手難)

鮎川哲也篇鉄道ミステリ・アンソロジーで、ほかに同様の作品集として「急行出雲」「見えない機関車」がある。
ジャマイカ氏の実験    
城昌幸
「或る人類空中遊行に就いての一考察」の副題がつくが、謎解き小説ではなく、夢幻的なショートショートである。

終電を待つプラットフォームの柱の影から何気なく見ていると、フォームを行きつ戻りつしていた一人の外国人が、フォームから外れて線路のある部分に出てしまった。しかし外人は下に落ちず、そのまま空中を散歩して反対側のフォームに行き、また戻ってきた。
終列車に乗って外人の後をつけた私は、その外人ジャマイカ氏に声をかけ、空中遊行術を見せてくれとせがんだが…

押絵と旅する男    
江戸川乱歩
昭和2年当時スランプに陥った乱歩が、旅先で書いた作品。


北陸の海辺を行く列車に乗った私は、車内で一人の老人とであった。その老人は額に入った押絵を持って旅をしていた。その押絵にはしわだらけの白髪の老人と若い女性が描かれていた。そして老人の口から語られた物語は…

人を喰った機関車    
岩藤雪夫
戦前の雑誌新青年に3作だけプロレタリア系の作品を発表した左翼作家だったという。


人喰い機関車と呼ばれる62845号機関車。なぜそう呼ばれるかというと…
ある夜のこと駅を通過しそうになって、慌てて車掌が非常弁を引き列車を止めた。そして機関車に行くと石炭をくべる炉口に機関手の児玉の死体が突っ込まれて焼かれ、助手の三浦は行方不明。
やがて駅から5マイルも手前のトンネル出口の海岸に、三浦の帽子と靴と上着が濡れたまま発見された。だがいくら捜しても三浦の死体は上がらなかった。
三浦と児玉が争って三浦が児玉を殺し、自殺したとの結論が出されたのだが…

とむらい機関車    
大阪圭吉
戦前の本格派大阪圭吉の作品。この作品は昭和9年雑誌「ぷろふぃる」に発表されたもの。


Y駅とN駅の間の貨物列車を牽引する蒸気機関車D50−444号は、轢殺事故を多く起こすことから所属機関庫ではとむらい機関車と呼ばれていた。
その機関車の機関手と機関助手は、轢殺事故を起こすたびに機関庫近くの葬儀社で小さな花輪を誂え、それを四十九日の間、運転室に提げておくのを習慣にしていた。
その機関車がB駅と機関庫のあるH駅の間のカーブで、日曜の早朝に轢殺事故を起こした。最初は気ずかずにいて、貨物積み下ろしのためにH駅に停車中の点検で轢殺したことが発見された。機関車は交換され、機関庫で点検と清掃が始められたが、とむらい機関車が轢いたのは豚だったことがわかった。それでも、機関手たちは律儀に花輪を誂えた。
一週間後の日曜早朝に再びとむらい機関車は同じ場所で、やはり豚を轢いた。さらに翌週、翌々週も同じだった。豚を轢くのはいつも同じカーブで、豚は紐で縛られて線路におきざりにされているらしかった。
いったい何故、毎週のように豚はとむらい機関車に轢かれるのだろうか…

探偵小説    
横溝正史
雪国の駅の待合室で語られる話。土地の素封家田口那美は実家のあるNから列車で35分ほどいったT市の親戚の家に下宿していた。冬は雪が深く、T市の学校に通うためには仕方がなかったのだった。
ある日のこと、那美は実家の父親が危篤との電報を受け、列車でT市からN駅へ向かった。ところがそのまま行方がわからなくなってしまった。やがて数日してNからかなりはなれた神社の境内で那美の死体が発見された。
調べてみると電報は偽物で、那美は何者かにおびき出されて殺されたらしい。那美のバッグからはT市からN駅までの改札済み乗車券が発見された。すると那美はT市から列車に乗って、そのままどこかで連れ去られたらしい。
しかし当日の列車はスキーヤーで超満員であり、とても那美を連れ去ることなど簡単にはできなかったはずであるが…

電気機関車殺人事件    
芝山倉平
昭和21年12月号に発表された、いかにもそそる題名の本作品の作者芝山倉平は経歴等一切不明で、この作品以外は世に残していない。


常信線の長大トンネルである三国トンネルは単線電化で、中央に列車の行き違いができるように三国信号所が設けられていた。電気機関車に引かれた客車列車は、信号所で行き違いの為に停車するはずであったが、信号所が近づいてもスピードを落さず、車掌が非常ブレーキを引いて急停車した。
しかし間に合わず先頭の電気機関車は安全側線に乗り上げて、脱線して停まった。信号所の駅員や車掌、列車に乗っていた鉄道関係者が機関車に駆けつけると、機関車の出入口は全て内側から錠がかかっていた。
だが窓から中を覗いてみると機関手が血にまみれて倒れているのが見えた。ガラスを割って機関車内に入ると機関車は頭を鈍器で殴られて運転室内で死んでおり、機関助手は機関車内の通路で感電死していた。
機関車内は密室状態であり、助手が機関手を殺し自殺したように見えたのだが…

飛行する死人    
青池研吉
雑誌「ロック」の懸賞募集の二席となった作品であるが、作者青池研吉の経歴等は一切不明。


積もった雪の中に逆さに埋もれた女の死体。死体の周囲には足跡はまったくなく、首から胸にかけて大ダンビラのような鋭利な刃物でザックリと切られた大きな傷が死の原因だった。
巨大な人間がダンビラを振りかざし、そのまま死体を放り投げ、死体は頭から真っ逆さまに雪に突っ込んだというのが、その情景であった。
いったい誰がどうやって被害者を殺害し、その死体を飛ばしたのだろうか…

下り終電車    
坪田宏
M電鉄の線路で発見された轢死体の主は、贈賄容疑で指名手配された男鹿沢であった。鹿沢の死体は始発の前に線路を歩いていた保線係員によって発見され、したがって轢かれたのは前夜の終電より前のことであった。
前夜鹿沢はM電鉄副社長の甲斐と料亭で会っており、料亭から甲斐の車で帰っていった。もっとも警察に追われているので自宅へはいけず、甲斐の車の運転手によれば、轢死体発見現場近くの国道で車を降りたという。その証言から鹿沢を引いたのは下り終電車であることが確実となった。
やがて捜査が進み、鹿沢殺害の容疑者としては甲斐がもっとも怪しいということになったが、甲斐はなんと鹿沢と別れたあと車がないので電車で返っていた。その甲斐の乗った電車が下りの終電車で、鹿沢を轢いたと思われる電車であった。つまり甲斐には鉄壁のアリバイがあったのだった。

夜行列車    
土屋隆夫
信州在住の本格派である土屋隆夫は、寡作であるがその作品の質は高い。本作品は昭和26年「宝石」に掲載された作品。


東北に向かう夜汽車に乗り合わせた中年男と青年、若い女の3人。女が寝入り、中年男は旅のつれづれに目の前の青年に向かって身上話を始めた。
男は田舎に見合いに戻るところだと言った。しかも1年前に妻が首つり自殺をし、その後妻として娶るつもりだとも話した。そして、妻の自殺の顛末を語り始めた。すると青年の目つきが変ってきて…

沼垂の女    
角田喜久雄
終戦後、新潟の田舎に住む友人の招待を受けた「わたし」は、上野駅から超満員の夜行列車に乗った。上野駅で見かけたうつろな目をした若い女は、「わたし」同様新潟の一つ手前の沼垂で降りた。
沼垂は雨であった。雨具もなく困っている「わたし」に女はうらぶれた自分の家を雨宿りの場に提供してくれた。そこで女は身上話を語ったが、その話とは…

笑う男    
多岐川恭
直木賞作家である多岐川恭が、新聞社をやめて推理作家専業となったときの、最初の作品がこの作で、「宝石」昭和33年7月号に発表された。


広島県M市役所の係長だった刀根剛二郎は、不正事件で多額の金品を得た。それを機に刀根は市役所を退職して、金貸しを始めた。
不正事件の関係者は、上司であった課長と部下の女性事務員で、けっしてバレることはないはずであったが、刀根は用心のために女性事務員広畑くみ子を退職させ、自身の愛人として福岡県に住まわせ、週1回のわりで通っていた。
不正事件から5年余り、金貸しとしても成功し、くみ子との関係も上手くいっていたが、M市で大規模な横領事件が発覚、収入役が取調べを受けた。
その収入役は5年前の不正事件の時の課長であった。この事件を知った途端に不正事件の発覚に脅える刀根であった。収入役は取調べ中に自殺し、その後何事もなく過ぎたが、刀根のもう一つの心配はくみ子であった。
愛人であったくみ子が愛おしい存在から危険な存在に変わったのだ。幸いくみ子は近所付き合いもせず、刀根の愛人であることを知るものは誰もいない。思い切って刀根はくみ子を殺すことにした…

下り”はつかり”    
鮎川哲也
シナリオライター千家和夫が桜井花子を殺したのは間違いなかった。動機はあり、桜井が殺された直後に、桜井のアパートの部屋から出てきたのを目撃されていた。
しかし千家にはアリバイがあった。桜井が殺されたのは夕方6時、場所は都内代々木のアパート。そのころ千家は妻と一緒に常磐線の列車の中にいたというのである。
アリバイの証明として提示したのは一枚の写真。川で釣りをする千家と背後の鉄橋、そして鉄橋を渡る下り特急はつかりが写っていた。
写真には細工をした後はなく、着ていたものから日付も桜井が殺された日以外はあり得ず、専門家の鑑定でたしかにはつかりが常磐線の広野付近の鉄橋を渡るところに間違いはなかった。
広野は福島県にあり、そこの鉄橋を下りはつかりが通過したのは16時37分。これでは6時に代々木に着くことは到底不可能だった。千家の写真を前にした鬼貫と丹那は福島に向かうことにした。

最終列車    
加納一朗
加納一朗は守備範囲の広い作家だそうだが、本作品は異次元ミステリーというよりSFと言ってもいい作品。


社長の青田を殺して金庫の金を奪った船津。社長室で青田の死体の側にあった時刻表を持って逃げるために外に出た。時刻表を見ると最終列車の大坂行きに間に合いそうだった。駅に向かうが途中の道路には車一台人一人いなかった。不思議がりながらも駅に着いた船津は、最終列車に乗ってホッとするが…

泥棒と超特急    
星新一
本作品は交通公社発行の雑誌「旅」の新幹線特集号に掲載された、SF作家として有名な作者のショートショート。


駅前の商店街の貴金属店から宝石や現金を奪った二人組の泥棒は、警官達に追われ目の前に停まっていた列車に飛び乗った。最初はトイレに隠れ、おそるおそる車内に出てみると、座席には人形が何体も掛けていた。列車は超特急らしくスピードをグングンあげていくが…

浜名湖東方15キロの地点    
森村誠一
昭和44年に「高層の死角」で乱歩賞を受賞した森村誠一の受賞直後の短篇がこの作品。森村誠一は、この後「新幹線殺人事件」で作家の地位を確立していく。


浅田申六は何不自由なく暮らす学生であった。申六には女がいて、その女は学生運動の闘志として活躍中の洋子であったが、内ゲバの犠牲になって殺された。
洋子が殺されたのは学生運動組織の対立が原因であったが、なぜ対立したかといえばA国の首相秘書ナイトンの来日抗議運動が発端であった。
申六は洋子の復讐の為に、来日中のナイトンを殺すことを計画する。ナイトンは東京での日程を終えると、新幹線で大阪に移動し、大阪で開催されるA国フェアを視察することになっていた。
申六は新幹線を爆破することを計画するが…

二十秒の盲点    
斉藤栄
斉藤栄は昭和41年に「殺人の棋譜」で乱歩賞を受賞した。わが国有数の多作家として現在も活躍中。


ミミ、ハナ、ヘソの3人組の宝石強盗団は銀座の宝石店から見事宝石を盗み出したが、直後に警報装置が作動し警備員に追われた。ミミとハナは何とか逃げおおせたがヘソは警備員に捕まり、警察に引き渡された。
警察の調べでもヘソはほとんど何も喋らなかったが、ベテラン刑事のテクニックにかかり、3人の落ち合う場所を根岸線洋光台駅の伝言板の前と口を滑らせてしまう。それを聞いた刑事は、さっそく駅に張り込みを開始するが、終電まで張っても、ミミもハナも現れなかった。ヘソが嘘を言ったとは思えないのだが…
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