密室殺人傑作選
サンポウ・ノベルズ(入手難)

評論家中島河太郎氏よるアンソロジー。
偽装自殺
大谷羊太郎
盛岡から娘の結婚式のために上京した刑事広田敏郎は、結婚式の翌日警察署の前で迷っている若い女性水森明子と出会う。明子が警察に入ろうかどうしようか迷っているのを見かねて声をかけたのだ。
近くの喫茶店で話をするうちに明子は明るくなり、広田は明子をアパートの部屋に送って行った。別れ際広田は鞄に入れて持っていた、みかんやチョコレートを与えた。
翌々日、広田は新聞で明子の自殺を知る。それによると明子は広田と別れた後で、広田の渡したチョコレートに注射器青酸を注入し、そのチョコレートを食べて服毒死したという。
現場の部屋は窓もドアも内側から施錠された完全な密室。隣室で徹夜をしていた青年も明子の部屋に人の出入りした様子はないと言い切った。
広田は立ち直った明子が自殺するはずはなく、事件は偽装であると主張するが…

降霊術
山村正夫
陶芸の老大家蒔室惣輔が庭に建てられた土蔵の中で死んだ。土蔵は惣輔の父が明治のころに建てたもので、惣輔は内部を改造して書斎と仕事場に使っていた。
土蔵本来の土扉には内側から錠が掛けられており、そのほか外部と繋がっているのは鉄格子のはまった小窓と、屋根に突き出た煉瓦の煙突だけであった。
惣輔は腹と胸を短刀様のもので刺されていた。その凶器は後に土蔵から離れた窯のそばで発見された吉光の短刀で、犯人が小窓の鉄格子の間から投げ捨てたと思われた。
そのほかには変ったところは、暖炉で物を燃やした跡があるだけであり、惣輔の死は土蔵の密室殺人事件であった。

妻恋岬
藤村正太
海のすぐ近くの社宅の寝室で溺死していた化学技師木崎省吾。部屋は内側からドア、窓ともに施錠された密室で、発見された時ストーブはまだ赤々と燃えていた。
木崎の体は海水でグッショリと濡れていて、前の晩遅くに何者かが海の方から社宅に人間をかついで歩いていたのを目撃した人がいた。省吾は海で溺死し、誰かがその死体を部屋に運び入れ密室にしたらしいが…

悪魔の函
鷲尾三郎
大商人の別荘内に建てられたバラック小屋。主人の太郎左衛門は、そのバラック小屋に年に1回篭もって、怪しげな新興宗教の祈祷をするが、その最中に何者かに殺された。
バラック小屋とはいえ作りは頑丈で、出入り不能の密室状態であった。むしろバラック小屋であるだけに余計なものは何もなく、隙間もなくて細工は不能。
別荘内には妻や娘を始め甥や姪がやたらにいるが、ほとんどが精神分裂気味であった。この事件を解くのは売れない推理作家とストリッパーのコンビ。

雪の犯罪
楠田匡介
厳寒の季節の北海道での事件。評判の悪い金貸し早川久三老人がロシア風の丸太小屋を改造して作った書庫兼書斎で、後頭部を強打されて殺された。
現場の丸太小屋は、頑丈な出入口には閂が掛り、窓は二重窓で内側から施錠された密室であり、隙間風を防ぐために和紙で目張りまでしてあった。
当夜は数人の客があったが、いずれも金銭のうえのことで被害者との間にトラブルを抱えており、動機の面ではことかかなかったが、密室の謎を解かないことには犯人追求もできない状況になった。

高天原の犯罪
天城一
村の中央にある新興宗教一宇教本部。二階が教祖光満尊がいる紫神殿。その紫神殿で光満尊が殺された。二階に上がる唯一の階段のしたには神衛隊を名乗る二人の歩哨がいた。
光満尊はその歩哨の前を通って二階に上がり、そのまま殺されたという。二階に出入りしたのは光満尊のほかに巫女の千種姫一人。
千種姫によると二階で光満尊の御神示を頂き、平伏して下に降りただけという。千種姫が嘘を言っていないとすれば密室殺人となってしまうが…

密室の鎧
戸板康二
歌舞伎役者中村雅楽シリーズの一篇。大正12年の関東大震災直後に山手の仮小屋で興行を始めた雅楽たち。その小屋は映画館だったものを、急遽歌舞伎ができるように改造した小屋だった。
2階に作られた大阪から来援する役者のための個室の楽屋は、役者が怪我で上京できなくなって空き部屋となり、鎧などの道具類が仕舞われていた。小屋の外からは盗難防止のために夜間は鍵がかけられる。
事件のときも鍵が掛けられて、その鍵は頭取が家に持って帰った。翌朝、一番に小屋に入った雅楽が、となりのその部屋からかすかな音がしているのに気づき、頭取立会いでまだ掛っていた鍵を開けると、中には腹を短刀で刺された大男の死体があった。
昨晩鍵を掛ける際の見回りでは死体などもちろんなかったし、その後鍵はずっと頭取のもとに保管されていた。死体の身元は小屋の関係者は誰も知らなかった。一晩で身も知らぬ男の死体が、密室の中に忽然と現れたのだった。

密室学入門
土屋隆夫
密室もの専門の推理作家岸辺流砂が新たに仕事場は、雑誌に石棺型モデルハウスと揶揄されたように、奇妙なものだった。密室好きでかつ音響ノイローゼの岸辺は、コンクリートの檻のような建物を建てたのだった。
出入口のドア以外は窓一つなし。室内は8畳ほどの仕事場に簡単な洗面所があるだけで、ろくな装飾すらなかった。ドアの鍵も純金製の特殊なもので、その重さと先端の精巧な技巧が鍵穴にピッタリとあった場合だけ開くという代物で合鍵などなく、また合鍵を作るのも不可能だった。
ドアはオートロックで、鍵を使わなければ内側からも外側からも開かなかった。
今、この岸辺の石棺型モデルハウスに雑誌社の編集者の青年が原稿を取りにやってきて、あろうことか岸辺に向かって厳密な意味での密室殺人など誰一人として書かなかったと言い切り岸辺を怒らせた…


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