13の密室
講談社(入手難)

渡辺剣次による名アンソロジー。巻末に編者渡辺剣次による密室の解体整理がつく。
火縄銃    
江戸川乱歩
江戸川乱歩が早稲田大学在学中に日記帳の余白に書いたもので、本当の意味での乱歩の処女作である。同じ次期にアメリカのM・D・ポースト、フランスのモーリス・ルブランが同じパターンで短編を書いたが、これはまったくの偶然で、期せずして日米仏の競作になった。
A山麓Sホテルの洋館の離れに滞在する林一郎が銃で撃たれて死んだ。銃は旧式の火縄銃で、林の部屋のテーブルに置かれており、凶器に間違いなかった。
ドアには内側から鍵が掛けられており、人の出入りは不可能、窓はほんの少しだけ開けられていた。林は習慣になっている昼寝をしていて、ベッドに横たわったまま銃を撃たれていた。警察では犯人が外から発砲し、銃を投げ込んだというのだが…

蜘蛛    
甲賀三郎
昭和5年「文学時代」に掲載された作品で、機械的トリックの好きな甲賀らしく機械的密室ではあるが、この作品には珍しく心理的な面も加味されているといわれる。


物理化学の泰斗であった辻川博士が大学の職をなげうって、突然蜘蛛の研究を始めた。その辻川博士の研究室は奇怪な形をしており、直径2間半、高さ1間半の円筒形の建物であった。
その研究室の最上階から、物理学者の潮見博士が墜落死した。そのとき部屋の中には辻川・潮見両博士と「わたし」がいて3人で談笑していたが、潮見博士の足元に這ってきた蜘蛛を毒蜘蛛と勘違いした潮見博士がいきなりドアを開けて外に飛び出し、階段を踏み外して墜落死したのである。
蜘蛛は毒蜘蛛ではなく潮見博士が勘違いののちに不幸にも事故死したものとされたが…

完全犯罪    
小栗虫太郎
今なお熱烈なファンを持つ小栗虫太郎のデビュー作で、昭和8年「新青年」掲載の本作は、当時の中国南部における奇怪な密室を扱う。今ではトリックともども時代を感じさせる作品になっている。


1930年代の中国南部中華ソビエト共和国正規軍の一部隊が占領した地域に、オックスフォードの人類学者ローレル教授の研究所があった。その研究所は部隊の司令部になった。
そのころサーカスから逃げてきたポーランド人の女性ヘッダが、研究所に流れてきた。ヘッダはさっそく仕官の慰み者になったが、それは本人も承知のことだった。
その最初の夜、ヘッダは相手の仕官とともに自室に入り風呂を使ったが、すでにヘッダは泥酔しており、仕官は風呂から引きずり出すのが精一杯で、ヘッダを床に寝かし部屋を出てしまった。
そのときにはヘッダがまだ生きていたことは間違いなかった。その後ヘッダは部屋の中で毒殺されたが、その間ヘッダの部屋に出入りできたものはいなかった。
ヘッダの部屋は窓は内側から鍵がかかり、窓に面した庭には警備兵がいた。ドアに鍵はなかったが、ドアの外では4人の仕官が麻雀卓を囲んでいた。したがってヘッダの部屋には誰も出入りできないはずであったが、何者かによって青酸ガスを嗅がされヘッダは死んだのであった。

石塀幽霊    
大阪圭吉
戦前の本格派大阪圭吉の作品。この作品は昭和10年雑誌「新青年」に発表されたもの。


舞台は山の手の丘の上に立つ広大な秋森家の屋敷前で、屋敷の外には長い石塀が巡らされ、その前を石塀に沿ってゆるやかに弧を描き道路が走っている。時間は夏の盛りの午後、屋敷の隣のアパートの前のポストで、アパートの住人と郵便屋が話をしていると、秋森家の屋敷の門で悲鳴が上がった。
二人が見上げると門から浴衣に兵児帯の二人連れが出てきて二人とは反対側に足早に歩いていく。二人が門に駆けつけると、そこには中年の女が倒れていて、二人が駆けつけたのを待つように息を引き取った。
郵便屋を後に残し、門から出てきた怪しい二人を追ったアパートに住人が行き会ったのは一人の背広姿の男。その男は秋森家の差配人だといった。事件を聞いて差配人も表門に駆けつけた。
しかし、アパートの住人も差配人も犯人と思われる怪しい二人連れの姿は見ていなかった。犯人はどこに消えたのか…

犯罪の場    
飛鳥高
飛鳥高も余技作家で本業は建設会社の研究所に勤務していた。作品数は少ないながらもトリック・メーカー、「細い赤い糸」で第15回探偵作家クラブ賞を受賞。


ある大学の土木工学科の建物にある実験室は、木造2階建ての建物の端にあり、2階部分まで吹き抜けになっていた。1階部分にはある窓は引き違い戸であるが、いつも施錠されており事件当時も施錠されていた。
2階部分には回転窓があり、これは事件当時開いていたり閉まっていたりまちまちであったが、開いていてもその空間は狭く人の出入りは不可能であった。
出入り口は3ヶ所、1つは外に面していたがこれは内側から施錠されていた。2つめは1階の隣の部屋に通じるドアであったが、このドアの外には3人の学生がいて彼らの目に触れずに出入りするのは不可能。
最後の1つは部屋の隅の階段で2階の木村博士の部屋に通じていたが、博士の部屋には木村博士と助手の大崎がいて、このルートからも人目につかずに出入りは不可能だあった。
この事件の被害者は学生の菅。実験室内の机に座っていたところを、2階の窓の開閉に使う錘で殴られ殺されたのだった。犯人はどうやって菅を殺したのか…

不思議の国の犯罪    
天城一
本業が数学者であり、独特の文体で余技に執筆する天城一は、熱烈なファンを一部に持つ作家で、密室・アリバイ・不可能犯罪物の短篇を主に発表。本作は昭和22年雑誌「宝石」に発表されたデビュー作。


その殺人の起こったのは八洲興業の私用通路…表通りに面した通用門から建物の裏口まで続いている50m足らずの細い路地で、札付きの不良社員が背中を鍔と柄が立派すぎる派手な短刀で刺し殺されていた。
裏口からこの社員が急いで出て行くのを宿直社員と守衛が見ていた。5分後に守衛が通路に出てこの社員が短刀で刺され転がっているのを発見した。
しかしその間に通用門の外では巡査と非番の守衛が立ち話をしていた。裏門と通用門には目撃者、通路の両側は壁、途中に一つあるマンホールにも異常はなし。通路は密室であった。

影なき女    
高木彬光
高木彬光は「能面殺人事件」「刺青殺人事件」で終戦直後にデビューした息の長い本格派。この作品は、昭和25年の探偵作家クラブ新年例会の犯人当てゲームの出題作品。


私立探偵相良竜夫の事務所に、これから森島信太郎を殺すと、女の声で殺人予告の電話があった。電話の主は影なき女と名乗った。
電話は事務所の助手日下部が受け、相良探偵とともに森島の家に赴く。ところがすでに森島は殺された後だった。
邸内の応接室で女といるところを目撃されたのが最後で、気づくと女は消え、森島は殺されていた。凶器はニコチンの毒。そして部屋は密室状態であった。
窓と扉には内側から鍵が掛かり、しかも扉から出ても人に見られずに家を出て行くことは不可能であった。
相良探偵は森島の営む金融会社の社員で、森島の秘書のような仕事をしている浜田と学生時代からの知合いであった。
その関係で、警察にも事件について助言をするが、相手にされなかった。数日後、相良は日下部に事件の謎が解けたといい、当時と同じ条件で実験をすることにした。
森島未亡人に話をして場所を借り、森島の代役に浜田を、浜田の代役に日下部を、影の女には相良探偵事務所の事務員江杉を指名した。
実験が始まったが、今度はなんと浜田がニコチンの毒で殺されてしまう。状況は前回と同じ密室。ただ、影の女役の江杉は何者かに気絶させられていた。
よって実験中に現れた影の女は江杉と別人と考えられた。さらに実験を実施した相良探偵が自身の事務所の部屋で、同じくニコチンの毒で殺されてしまう。
相良の部屋も窓には内側から鍵が掛けられ、ドアにも鍵が掛り、しかもその外には日下部や江杉がいた。部屋の中には影の女がいたことは間違いないが、その姿は消えていた。ここに至り警察は名探偵神津恭介に出馬を依頼した。

立春大吉    
大坪砂男
独特の文体で砂男ワールドと呼ばれる不思議な世界を築いた作家大坪砂男の昭和24年発表の作品。


病気の為に寝ていることが多く、外出も松葉杖に頼らざるを得ない大吉は、妻の梅子と主治医の藪の仲を疑う。大吉の家は清和源氏の末流で、かつては資産家で羽振りもよかったが、戦争で没落して使用人は全て去り、梅子も今や家に唯一の財産となったダイヤモンドを盗んで、藪との駈け落ちを考えているらしい。そうはさせじと大吉は藪を屠る決心をする。
やがて藪は大吉の家で入浴中に、背中に何かを刺されて殺された。現場の浴室の戸は中から鍵がかかり、窓は開いていたが人の出入りは不能。凶器は後に物置から発見されたスポーツ用投槍と考えられた。
犯人は窓から紐をつけた投槍で浴室の中の藪を刺殺した、投槍には梅子の指紋が出て警察は梅子を連行したが…

赤い密室    
鮎川哲也
ご存知鮎川哲也は初期に星影龍三ものの密室三部作として、赤、青、白の各色の密室を書いた。そのうちで最も完成度の高い作品と言われるのが赤い密室である。


舞台は大学の解剖室。天野教授のもと伊藤ルイ、香月エミ子、浦上文雄、榎茂の4人の男女がその門下生としていたが、4人は相互に憎しみさげすみあっている状態だった。
ある日のこと、いつもどおり浦上と榎が解剖室にやって来た。解剖室は建物の入口のドアにはナンバーロックのキーが付き、さらに解剖室の入口には鍵がついていて、ナンバーロックの番号を知っているのも解剖室の鍵を持っているのも浦上だけだった。
いつものように浦上がナンバーロックをあけ鍵を開けると解剖室の中にはバラバラの死体があった。解剖台には首と関節で3つに切断された左足、それに左の上膊と下膊が転がり、解剖台の回りには油紙と新聞紙に包まれた右の足や手、さらに記録机の下からは油紙包みが麻紐で結わえられ荷札まで付いた胴体と左手首があった。
近くにはハンカチでカバーされた自転車用ランプがスイッチオンのまま放り出されていた。被害者は香月エミ子で、犯人はエミ子の体を切り刻み、どこかに送ろうとして梱包している最中に邪魔が入ったとみ見え、あわてて全てを放り出して逃げ去ったらしい。
現場は出入口は二重に鍵をかけられ、窓は内側から鍵がかかり、さらに鉄格子があり、その外側には鍵のかかった鎧戸が閉まっていた。他にはガス管、水道管、換気孔などがあるばかりで密室と言ってよかった。犯人はどうやって消えうせたのだろうか

完全犯罪   
加田伶太郎
昭和31年に「週間新潮」に発表された加田伶太郎氏のデビュー作で、この作品は犯人宛ての形式を取っている。貨物船の船内で若い船医が経験した密室殺人事件を語り、それを事務長・船長・船医自身が迷推理で解いた後、名探偵が解決編として正解を語るのである。


元船長で現在は貿易会社を経営する雁金玄吉氏の邸宅は、明治時代の古い洋館を改装した3階建てで、その3階に雁金氏の居室がった。3階の各部屋は船室を模して、窓は外側に少し張り出した鉄の窓枠に、手前側に開く丸い一枚ガラスがついた丸窓であった。
雁金氏のもとにある日英文の脅迫状が届く。英字新聞を切り抜いたもので、さらに日を置いて2通の脅迫状が届き、最後の脅迫状では雁金氏を13日夜に殺すとあった。
雁金氏は犯人襲撃に備えて部屋に篭もり、3階への階段を見通せる部屋には寄宿している中学生を見張りに起き、さらに3階の廊下には秘書の別府を不寝番につけた。
暫くは何事もなく過ぎたが、やがて庭で何かを燃やす炎が見えた。その直後に雁金氏の部屋の中から人が倒れるような物音が…ドアを合鍵で開け入ってみると雁金氏は床に倒れすでに、こと切れていた。
死因は紐のようなものでの絞殺、そのほかに頭を何かで殴られた後と、左手には赤い紐を持っていた。ドアには鍵が掛り、窓は手前に引かれていたがとても人が出入りできるほどではなく、大人が首を出すのが精一杯であった。このほか煙突があったが人が通り抜けた後はなく、現場は密室といってよかった。

密室の裏切り   
佐野洋
昭和33年に文壇デビューした佐野洋はその後多くの推理小説を発表したが、この作品はデビュー3年後の昭和36年に「宝石」に掲載された初期の作品。


倉橋金融の経営者倉橋初江が会社の自室で殺された。倉橋の部屋のガラス窓は内側から施錠されており、その他に外部と出入りできるのは2つのドア。
1つは隣室の事務室に通じており、ドアには鍵がかけられていたほか、事務室には4人の人間がいた。事務員の江田と客が2人に倉橋の友人が1人。
もう1つのドアは廊下に面しており、こちらには鍵がかけられていなかった。このドアの鍵は2つとも倉橋が持っていて、2つの鍵は部屋の中から発見された。
したがって倉橋が犯人を廊下側のドアから中に入れて、その犯人に殺され、犯人は廊下に逃げたとうのが事件の概要となるが、ここに問題が一つ。
部屋の中の廊下側のドアのすぐそばにピースの缶が転がっていたのだ。ドアは内側に開くからもし犯人がそこから脱出したのなら、ピースの缶はそこにはなく、どこかに転がされていなければならない。現場は密室ということになってしまったのだ。

梨の花   
陳舜臣
「中国の歴史」などで有名な陳舜臣は、昭和36年「枯草の根」で江戸川乱歩賞を受賞した推理小説作家でもある。


大学院生の浅野富太郎は文化史研究所の予備室で寝泊りしていた。ある夜、予備室のベッドで眠っていると、何かに射られたような痛みを目におぼえてはねおきた。
が、目を開けると同時に、その目がくらんでしまった。あまりにもまぶしい光に何も見えなくなったのだ。その目潰しをくらって茫然としているときに、左肩の下を担当のようなもので傷つけられた。
傷口を押さえ廊下に出て非常ベルを押し、そのまま激痛を堪えて建物の内鍵を開けた。同時に非常ベルを聞いた人たちが、建物の入口からなだれ込み、富太郎は気を失った。
病院に担ぎ込まれた富太郎の証言から、当夜建物内には富太郎以外はおらず、入口の鍵は内側からかけられていた。予備室以外の部屋の窓は全て内側から施錠され、予備室の窓は開いていたが窓には盗難防止のために鉄格子が嵌っていて、人間の出入りは絶対に不可能。
目潰しを食らわせた光のもとも短刀もどこからも発見されず、密室の傷害事件ということになってしまった。

聖父子   
中井英夫
千二百枚の大長編「虚無への供物」で有名な中井英夫は独特の文体で作品を書いた。本作品も独特の書かれ方で、密室トリックが中心になっているが本来の意味の推理小説ではない。


父から子の滋彦に宛てて書かれた手紙…
滋彦の母路子は内側から鍵……といってもボルトを差し込んだだけのものだが……をかけられた浴室の中で死んでいた。事故か?いやそうではない。あるトリックにより路子は殺されたのだ。そのトリックとは…

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