鉄道推理ベスト集成第1集
徳間書店(入手難)

鮎川哲也編鉄道ミステリ・アンソロジーで第1〜第4集がある。
蒔かれし種    
本田緒生
戦前に数編の短篇を発表した作家で、本作は「新青年」大正14年4月号に掲載されたもの。

夜行急行列車の寝台車の中で一人の夫人が絞殺された。発見者は同じ寝台車に乗っていた青木伯爵。現場には伯爵のネクタイピンが落ちていて、隣の寝台の乗客によると伯爵に似た声の男が被害者と話しているのが聞こえたと言う。
最後の停車駅を出てからも被害者が生きていたことは間違いなく、また車掌によればその後、他の車両から寝台車に入ってきたものはない。したがって犯人は寝台車内の乗客であり、物証から青木伯爵に疑いが…

股から覗く    
葛山二郎
戦前から戦後すぐにかけて短篇で活躍し、筆を折った葛山二郎は本格派ながらひねりを加えた作風が特徴。本作は「新青年」昭和2年10月号に発表された。


天橋立を股から覗くように、いつも股の間から逆さに景色を見る癖のある男加宮。その加宮がいつものように股から覗いているときに殺人を目撃した。
その殺人事件はマラソン大会の最中に起きた。踏切を通過中の貨物列車に足止めされていたランナーの一人がもう一人のランナーに突き飛ばされ、貨物列車に轢かれて死んだ。突き飛ばしたランナーは次の瞬間視界から消えたが、そのときにゼッケンの番号6が見えたという。これが踏切の反対側で股から覗き、貨物列車の箱下と線路の間のわずかな隙間から加宮が目撃したことだった。
消えた犯人は当時踏切を挟んで行なわれていた下水工事の為に大きく掘られた溝に飛び込んで逃げたと考えられた。下水工事は既に踏切の下の部分は終わっており、トンネルのようになっていたのだ。
さっそくゼッケン6の選手が容疑者として逮捕されたが、その選手は頑強に犯行を否認。その後貨物列車の通過前に踏切の先のチェックポイントを通過していたというアリバイが証明され釈放された。では誰が…

省線電車の射撃手    
海野十三
戦前における本邦SFの大家海野十三は科学探偵帆村荘六が活躍する推理小説も何篇か発表している。本作は「新青年」昭和6年10月増大号掲載。


省線電車とは戦前鉄道省といっていたころの東京周辺の電車のことで、その後の国鉄時代には国電と呼ばれた。この作品の省線とは現在の山手線を指す。
恵比寿駅を出た省線電車の内回り電車が、次の目黒駅との中間地点に差し掛かったところで車内の若い女性が突然椅子から転げ落ちた。周囲の乗客が助けようと近づいたところ、その女性の胸には銃創があり既にこと切れていた。
その日は残暑が厳しく窓は全開、車内の乗客や車掌はピストルの発砲音はしなかったと口々に証言。するとピストルは外から撃たれたものか…
さっそく沿線が調べられたが、途中の屋敷の塀の外に薬莢が落ちているのが見つかった。しかしこの家の主人は事件に無関係であると主張。
決め手が見つからぬまま時間が過ぎたが翌日の夜、再び車内にいた女性が射殺された。撃たれた場所は前日と全く同じ場所で、この日も窓は全開であった。
すぐに捜査が開始されたが、その直後にまたも同じ場所で車内にいた女性が射殺されると言う事件が起きた。3人もの人間を犯人はどこからどうやって射殺したのだろうか?

気狂い機関車    
大阪圭吉
H機関庫からN操車場へ向かった、単行タンク型蒸気機関車が途中のW駅で給炭水のため停車した。その後、機関車は何事もなかったかのようにN操車場へ向かったが、そのあとの給炭水した場所のあたりに機関助手の死体があった。凶器に使われたのはビーターとよばれる保線用の鶴嘴だった。
その事件を調べるためにW駅に着いた青山喬介と「わたし」は、機関車の辿った線路沿いに血痕が続いているのを不審に思い、血痕を辿っていくと駅のはずれのカーブのところで第二の死体を発見した。
その死体は、機関手のものでナイフを背中に深々とつき立てられて線路沿いに転がっていた。すると機関車は無人のままで、N操車場に向かって走りつづけていることになるが…

急行しろやま    
中町信
堅実な本格派中町信のごく初期の作品。「推理ストーリー」昭和44年8月号掲載。


西鹿児島発大坂行き急行「しろやま」の広島発時刻は朝8時58分。この列車に広島駅から乗り込んだのは滝田寿之助。滝田は岡山県の笠岡駅と里庄駅の中間、線路と交差する用水路の中で死体となって発見された。
アルコールを飲んでおり、それは車内の隣席の乗客の証言も裏付けていたが、酔ったうえでの事故でないことは首に残された親指の跡で明らかだった。
隣席の乗客によれば、滝田は広島県の福山駅と笠岡駅の間で席を立ち、後部車両へ向かいそれきり帰ってこなかったいう。
滝田の乗車車両の後ろにはさらに2両寝台車が繋がれており、滝田は後ろの車両のデッキで何者かに首を絞められて殺され、列車から突き落とされたのだった。
滝田は東京の出版社の部長職で、現在会社は組合闘争で揉めており、滝田は会社側の責任者であった。
滝田は社長の信任も厚く、そのために組合にも情け容赦なくあたり、多くの組合員にも評判が良くなかった。やがて浮かびあがってきた4人の容疑者。だがそのいずれにもアリバイがあった。
そのうち組合員の石川と非組合員久我はその日会社を休んでアパートの石川の部屋で情事にふけり、隣室の主婦に二人の姿を何度か目撃されている。
組合執行員の青木は風邪で高熱を発して寝込んでいて、近所の人間の証言があった。
管理職で滝田に目をかけられていた猿淵は、東京を10時30分に出る急行「桜島」で名古屋へ向かっていて、乗車1時間ほど前に東京で姿を目撃されていた。犯人はこの4人の中にいると思われたが…

歪んだ直線    
麓昌平
本業は医者の余技作家。この作品は雑誌「推理界」の新人コンテスト佳作入選作で、同誌昭和44年8月号に掲載されたもの。


東北線花巻駅から出ている地方の中小私鉄で20分ほどいった駅の近くの川の土堤で発見された女の死体。女は盛岡でダンス教室を開いていたが、郡山の生命保険会社の支社長の愛人であった。
最初はその支社長が疑われたが、次には支社長の片腕の杉尾という保険会社の若い社員が犯人と思われた。ところが杉尾にはその日仙台にいたというアリバイがあった。
被害者は私鉄の駅で夕方6時ごろに電車から男と降りたのを駅員に目撃されている。その男が犯人なのは間違いないのだが、杉尾はその日の午後に仙台で歯医者にいたことが証明された。歯医者の受付の看護婦と医者に残されたカルテがそれを立証していた。
その時間に仙台にいては、とても夕方6時までに犯行現場に行き着けなかった。杉尾には鉄壁のアリバイがあった。

殺意の証言    
二条節夫
医師であり企業の産業医として勤務していた余技作家で、本作は雑誌「推理界」昭和44年9月号に掲載されたもの。


何ヶ月かに一度彦根から大坂に出張し、帰りに東海道線の最終列車で帰るサラリーマン。そのサラリーマンはある夜、最終列車の中で右手親指のない見知らぬ男から不気味な話を聞く。
その話とは男が親指をわざと切り落としたというもので、そうしないと妻の首を絞めてしまうのだという。
サラリーマンはあるときその話を思い出し、妻の首を思わず絞めて殺してしまった。そして愛人の首も同じく絞めてしまった。人の首を絞める快感を覚えてしまったのだ…
という小説を同人誌に発表した小沢。その小沢の妻が牛乳に青酸カリを溶かして服毒死していた。妻の手には小沢の小説が載った同人誌が握られていた。事件は自殺のように思われたが、同人誌を握っていたのには何の意味が…

山陽新幹線殺人事件    
夏樹静子
夏樹静子はわが国女流推理作家の草分け的な存在で、この作品は「問題小説」昭和50年10月号掲載。


山陽新幹線を西下する博多行きひかり107号のグリーン車は人影もまばらだった。そのひかり号が広島駅に近づいた頃、一人の夫人が刺殺されているのが乗客により発見された。
被害者の所持していた切符から、岡山から乗車して広島で降りる予定であったことが判明。所持品には身元を直接示すものがなく、ほかの所持品を手がかりに福岡在住の資産家の未亡人とわかった。
前日から岡山に嫁いだ娘の家に泊りに行き、娘に見送られてひかり107号に乗り、福岡への帰途に広島の親戚を訪ねる予定だった。
被害者の関係者を洗った結果福岡の不動産会社社長森田が唯一の容疑者として浮かんだ。しかし森田はアリバイを提示。
森田は同じ時間帯山陽新幹線を走っていたひかり5号に新大阪から乗車し博多に向かっていた。博多に着くと駅から5分の自宅に帰り、大阪の義妹に電話、30分後には逆に義妹からの電話を福岡で受けたという。
しかも大阪の義妹の部屋には第三者がいて、福岡にかけた電話はその第三者がダイアルを回したという。この電話のやり取りを福岡でするためにはひかり107号に乗っていては不可能で、そのために森田にはアリバイが成立したが…

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