鮎川哲也の密室探究
講談社(入手難)

鮎川哲也、松村喜雄、天城一3氏による密室ものアンソロジー。
灯台鬼    
大阪圭吉
戦前の本格派大阪圭吉の作品。この作品は昭和10年雑誌「新青年」に発表されたもの。

汐巻岬の燈台のてっぺんにあるランプ室で、海霧の深いある夜、その事件は起きた。突然の大音響とそれに続く地響きに看守や関係者が驚いて燈台に駆けつけた。
真っ先に駆けつけたのは風間という老看守で、さらにその後から無電技手や小使が駆けつけてきた。ランプ室では友田というもう一人の看守が、大きな石に潰されて死んでいた。
さっきの大音響は、この大石が飛び込んできた音で、大石は燈台のランプを破壊して灯を消し、さらに友田看守を押し潰したものだった。
真っ先に燈台内の螺旋階段を駆け上がった風間看守によれば、赤いグニャグニャした大きなたこのような怪物が、ランプ室の割れた窓から逃げていったという。
さらに調べていくとランプ室の片隅に手斧が転がっていて、その手斧に付着した血から、友田看守は大石で潰される前に手斧で殺されていたらしいとわかった。
この汐巻燈台では、このところ明滅のトラブルが相次いでいて、そのトラブルがもとで座礁沈没した船もあった。いったい大石はどうやってランプ室に飛び込んだのか?姿を消した怪物の正体は?ついにその燈台に怪物が現れたのだろうか…

殺人演出    
島田一男
非常に軽妙な筆使いに特徴のある島田一男は戦後すぐの時期から、昭和50年代まで新作を書き続けた息の長い作家で、テレビの脚本家としても活躍した。


東関製粉会社の社員寮鴻々荘の二階で死んだのは青木という男。青木は4日ほど前から熱を出して寝込み、会社を休んでいた。
殺された夜も氷で冷やし部屋で寝ていたが、突然室内から大きな音がした。寮の住人達が驚いて青木の部屋に向かうと、ドアは室内から鍵がかかって開かない。
仕方ないので窓に梯子をかけて覗こうとしたが、カーテンでよく見えないし、窓も開かない。その直後に青木の部屋の電気が消された。住人達は青木が起きていると思って声をかけるが返事はなく、再び相談のうえ力ずくでドアを破った。
部屋の中は枕もとの小テーブルが倒れ、その上にあったらしい洗面器はひっくり返り、床一面水浸し。そして青木は毒薬を飲んで絶命していた。
部屋の中には毒薬の瓶があり、そこからは青木の指紋のみが検出された。ドアには閂、窓には掛け金がかかり、部屋は完全な密室になっていた。警察は状況から自殺と断定したが…

山荘殺人事件    
左右田謙
雪に閉ざされた矢島夫妻の山荘にやって来た矢島の友人、倉田、津村、黒沢の3人。3人が着いた時には矢島の夫人邦子と小間使い淑江は買出しに行って留守だった。
矢島がコーヒーを入れ4人で飲むが、津村は矢島がコーヒーの中に薬を入れ黒沢に渡すのを盗み見てしまった。10分ほどすると黒沢は頭痛がすると寝室に引きこもった。その後少しして邦子と淑江が帰り、体調不良の黒沢を残して夕食、さらに麻雀と進み、やがて邦子夫人が寝室に引き取った。
直後に寝室から叫び声がし一同が駆けつける。その時には体調も回復した黒沢もいて、一緒に駆けつけた。部屋には中から鍵がかかり、それを押し破って一同が室内に入ると中はもぬけの殻。窓は開いていたが、外の雪には足跡一つなく、邦子夫人は密室状態を残して行方不明になった。

盛装    
藤村正太
滝原慎一郎、昌二郎兄弟とユミ、マリ姉妹は複雑な関係にあった。富豪の滝原兄弟の家にユミとマリの姉妹が寄宿することになったのだが、やがて昌二郎とユミの間に愛情が芽生えた。
さらに慎一郎とマリが結婚し、一人息子の宏が生まれる。ここまでは至極幸せな二組だったが、慎一郎が出征したうえ負傷し、男性機能を失って戻ってくると幸せな状況は一変した。
もともと奔放な性格であったマリとプレイボーイであった昌次郎が接近、慎一郎はそれを嫉妬しユミも心の中では面白くなかった。慎一郎とユミの間は、傷心同士で相慰めあう仲になった。
さらにマリは学生の峰岸とも関係を持ち始めた。そんなある夜、滝原邸のマリの部屋でマリが殺された。その時、庭のあずまやの陰には忍んできた峰岸がマリの部屋を見ており、マリの悲鳴が聞こえ、その後マリの部屋で黒い影がマリを襲うのを見た。
その時邸内では慎一郎がマリの部屋に駆けつけていた。マリの部屋のドアには中から鍵がかかり、宏の泣き声が続き、さらに庭の窓にもカーテンが引かれて中からは掛け金がかけられていた。ドアを破って入ってみると、マリは短刀で刺し殺されていた。密室殺人であった。
その翌日の夜、今度は三浦半島のM市のT岬で慎一郎の死体が発見された。慎一郎は首と胴と両腕をバラバラにされており、首は滅茶苦茶にされていたが、耳の下のほくろから慎一郎の首と断定された。首と切り離された胴体は現場にあったが、両腕は持ち去られていた。
調べていくと、この夜マリを巡って、慎一郎と昌二郎はT岬でマリの立会いで、決闘をすることになっていたという。その時刻に現場に行った昌二郎が死体を見つけたのである。
死亡推定時刻はその決闘予定時刻より3時間ほど前であった。慎一郎は誰に殺され、また死体はなぜバラバラにされ顔をつぶされ両腕を持ち去られたのだろうか?

草原の果て    
豊田寿秋
戦時下のソ満国境での出来事。日本軍の小部隊が草原の百姓屋に宿泊した。夜間、その百姓屋の部屋で寝ていた中隊長佐田大尉が死んでいた。ベッドから転げ落ちて自分のベルトで首を吊っている上体で発見されたのだ。
大尉は夜中には自分の部屋に鍵を掛け、2つある鍵の一つは自分が持ち、もう一つはこの屋の主が持っていた。さらに大尉の部屋の外には、当番兵が交代でずっと立番をしていた。
夜中に百姓の娘が大尉の部屋に鍵で入り、中から水差しを持ってきて新しい水をいれ、再び中に水差しを戻したのが唯一扉が開いたときだった。その時にはベッドで大尉が高鼾で寝ていたのは間違いない。
翌日、その同じ娘が大尉を起こすために部屋に入ると、大尉が首を吊って死んでいたのである。部屋は密室で、大尉は自殺したと考えられたが、元警官の前田軍曹が索溝から見て自殺はありえないと断言した。誰かが密室の中で寝ている大尉を絞殺したのである。

悪魔の映像    
渡辺剣次
評論家であり、江戸川乱歩の内弟子としても有名だった渡辺剣次が、昭和31年の探偵作家クラブ新春例会で、恒例の犯人あて作品として書いたものが本篇。そのために問題篇と解答篇に分かれている。


テレビ局のスタジオでは、翌日の生放送ドラマのリハーサルが徹夜で行われていた。深夜2時、1時間ほど休憩をとることになり、俳優やスタッフはスタジオを出て思い思いに過ごした。しかし一人スタジオの中に残ったものがいる。主演女優の安土伸江だった。
伸江は映画掛け持ちでまだ台詞も完全に覚えておらず、この1時間で台詞を覚えるためにスタジオに一人残ったのだ。伸江は一人になりたいと防音のドアに中から鍵を掛けて閉じこもった。
かなりたってモニター室にいたテレビ局の人間がカメラモニターに移ったカーテン越しの怪しい人影を目撃する。それから15分後休息時間が終ったが伸江は応答せず、皆でドアを破ると中で伸江が絞め殺されていた。
スタジオ内は3つのドアしかなく、外部に通じる出入口は中から鍵が掛かり、しかもドアの外では伸江の付き人がずっとドアを見ていて誰の出入りもなかったと証言した。
もう1つは大道具の搬入口でこれも中から施錠されていた。最後は階上のモニター室に上る階段に通じており、ここにはテレビ局の人間と俳優がいた。しかもスタジオ内はテレビカメラが二台あり、カメラが移る範囲は常時モニター室で監視されていた。事件はテレビ局のスタジオという密室の中での女優殺人事件になってしまった。

二粒の真珠    
飛鳥高
飛鳥高も余技作家で本業は建設会社の研究所に勤務していた。作品数は少ないながらもトリック・メーカー、「細い赤い糸」で第15回探偵作家クラブ賞を受賞。


住宅研究所では大学の工業技術研究所と電鉄会社と協同で、新たに開発した軽量鉄骨造住宅の試作品の実験をしていた。
住宅はコンクリートの基礎の上に型鋼の枠を置き、その上に柱を建てて鋼材の小屋を組むという、簡単に言えばコンクリートの基礎の上に軽量鋼材の箱を乗せただけのものであった。
実用化に向けて研究所の人間が交代で生活して実験を積んでいたが、ある夜のことその中で研究所の中曽根所長がナイフで刺し殺されて死んでいた。
建物は中から鍵が掛かり、ほかの出入口もない完全な密室であった。そこで中曽根はナイフで刺されベッドから転げ落ちで死んでいたのだった。

密室の妖光(問題篇・解答篇)    
大谷羊太郎・鮎川哲也
問題篇が大谷羊太郎、解答篇が鮎川哲也という豪華連作となった本篇は、昭和47年別冊宝石に発表されたもの。枚数はいずれも50枚で読み応えある作品。


白井啓子がアパートの2階の自室で死んでいるのが発見された。発見者は啓子を訪ねてきた姉と管理人と啓子の部屋の向かいの部屋で受験勉強をしていた高校生。啓子の部屋は鍵がかかっていたうえ、内側から閂錠もかかり、密室状態であった。
死因は毒物の摂取で、カップの中に毒物が検出され、自殺かと考えられた。しかし向かいの受験生の証言で警察は自殺説に疑いを抱いた。昨夜、啓子の部屋で赤ん坊の泣き声のような音がし、直後に赤い火光のようなものが見えたと言うのだ。
すると何者かが啓子の部屋にいたことが考えられる。しかも啓子は妊娠3ヶ月の身重な体だった。その線から容疑者を絞っていくと3人の男が浮かび上がった。

右腕山上空    
泡坂妻夫
愛すべきキャラクターの探偵役亜愛一郎を生んだ泡坂妻夫は幻影城作家。亜のシリーズは、本格短篇も秀作ぞろい。


草原の中に、ぽっかりとあまり高くない山脈が伸び、その山脈の西端に半島のような山が聳えている。その山は人が肘枕をしているような形をしており、その姿から名づけられた名前が右腕山、高さは850m。
山脈の手前の草原には熱気球が据え付けられ、道化に扮した男が関係者やエキストラで連れてこられた沢山の小学生に見送られ、気球のゴンドラに乗って手を振っている。
場面はスネーク製菓の菓子の宣伝で、エキストラの子供達は徐々に高度を上げる気球に向かって、持たされた菓子を高々と掲げている。気球のそばにはヘリコプターが陣取り、スネーク製菓の宣伝部長とこの場面の撮影ために雇われたカメラマンの亜が乗っている。
撮影は無事終わりヘリコプターは地上に降りたが、気球は宣伝のために予定通りに右腕山の向こうに回りこんだ。地上のスタッフと気球の男は無線で連絡を取り合っていたが、無線が突然切られ、その直後から気球が上昇し始めた。
双眼鏡で気球を見ると、道化の男が見えず気球に何かあった模様だった。ヘリコプターが再び飛び立ち、気球に近づいてゴンドラの中を双眼鏡でのぞくと、ゴンドラに乗った男がピストルで撃たれて死んでいるのがみえた。
やがて気球は高度を下げてきて、地上に着地したが中の男のこめかみには銃弾で穴が開き、凶器の拳銃はゴンドラの中に放り出してあった。
地上に降りてからは、ゴンドラから脱出した人間はいなかったし、地上に降りたショックからかゴンドラに積込んだ食料の大きなバスケットは開いて中身が飛び出し、バスケットの中に人がいる気配はなかった。
死体の手には大きな道化用の手袋がはめられていて、とても自分の手で拳銃を撃つことは出来ず、自殺は問題外だった。空中の密室ともいえる熱気球のゴンドラでの殺人事件を前に亜は…

朽木教授の幽霊   
天城一
本業が数学者であり、独特の文体で余技に執筆する天城一は、熱烈なファンを一部に持つ作家で、密室・アリバイ・不可能犯罪物の短篇を主に発表


マスコミの寵児、心理学の朽木教授が自宅マンションで殺された。教授はその夜、女子大生朝倉なおみを電話で呼びつけた。その後をなおみの父親に頼まれた秘書兼ボディガードが追う。マンションの部屋に入るなおみ。エレベーターホールの物陰で教授の部屋の玄関ドアを見張るボディガード。
15分ほどしてなおみが血相を変えてドアを出てきた。エレベーターを待つのももどかしく慌てて去って行く。それから10分ほどして長髪のヒッピー風の男がエレベーターを降り教授宅に入る。だが2分と経たないうちに血相を変えて飛び出してきてエレベーターで行ってしまう。
ボディガードが中に入るとそこには教授の死体。床には凶器のピストル。事件は自殺とされたが、その後教授のいたA女子大に朽木教授の幽霊が出るという。島崎警部はある筋から教授の死の真相の再捜査を命じられた。

   
山沢晴雄
山沢晴雄は関西出身で本業が公務員。創作は余技のために作品数は多くない作家です。


中小企業の社長秘書内田京子は、社長のお供で日曜日に大阪市内を一緒に歩き回る。社長は両親代わりに育て、かつその後会社で仕事を与えてくれた人で、京子にとっては父親のような存在だった。
映画を見、立ち寄った古本屋で社長は本を買い、取引先の店を訪ねた。そこで社長から用事を頼まれ、阪和線南田辺駅前の喫茶店で、ある人に文書を届けてほしいと頼まれる。
喫茶店で待つ京子に、約束の4時を5分ほど過ぎた頃に社長から電話が入り、約束はキャンセル、変わりに会社に戻って手紙を出してくれと言われる。手紙の内容はカセットに吹き込んであるとのことだった。
会社に戻ると言われたとおりカセットに吹き込みがあったので、タイプにうち速達で出す。ふと見ると部屋の隅に先ほどまで社長の持っていた鞄があり、机の上には古本屋で買った本があった。
社長は電話で手紙をカセットに口述したあと、友人のところに行くと言っていたので、そう思ってビルを出ようとした。その時にビルの管理人に聞くと、社長はビルの玄関を通っていないと言う。その時は裏口から入ったと思っただけだったが、その後裏口に通じる扉が、作業のために塞がれていたことを知り、びっくりする。
社長はビルの玄関から入る以外にないはずなのに、いったいどこから入ったのだろうか…

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