密室殺人傑作選
The Locked Room Reader
HPB1161・ハヤカワミステリ文庫

14篇の密室の事件を集めた、ハンス.S.サンテッスン編の名アンソロジー。
ある密室     The Locked Room
ジョン・ディクソン・カー
カーといえば密室、密室といえばカーといわれるほどの、密室物の巨匠。

書籍収集家として世間に名を知られたフランシス・シートン氏が深夜書斎で襲われ、金庫が荒らされて中に入っていた現金が全て奪われた。
書斎の外の部屋には、シートン氏の秘書のアイリス・レインとハロルド・ミルズの2人がおり、書斎の中で人が倒れるような大きな音がしたので驚いて書斎に向かった。
しかし、湿気でドアがそってしまったらしく押しても引いてもドアが開かず、ミルズが体当たりして書斎に入った。シートン氏は床に倒れていてたが、まだ息はあった。
ミルズの指示でレインが救急車を呼びに出たが、その直前にレインが窓を見ると窓外にははしごが立てかけてあったが、窓には内側からさんがかかっていた。
シートン氏は病院に運ばれた。頭部を鉛入りのほうきの柄で殴られていたが、命を取り留め暫くすると意識が戻った。なお、凶器は室内に残されていた。
シートン氏はその日の朝アメリカに渡ると言い出し、2人の秘書に解雇を言い渡した。これが動機とみなされ最初は2人の秘書が疑われたが、シートン氏は2人の秘書の話し声が聞こえているときに突然殴られたような衝撃をうけて昏倒したと証言した。
この証言によって2人の秘書の疑いは晴れたが、犯人は煙のように密室に入り、煙のように密室から消え失せたことになってしまったのだ。

クリスマスと人形     The Dauphin's Doll
エラリー・クイーン
パズラーのクイーンも密室や不可能犯罪にも手を染めている。本篇は犯罪カレンダーの中の一篇。


30年に渡り人形を蒐集して先ごろ息を引き取った、シサリーア・イプソンのコレクションの中で、最も価値があるのは49カラットのダイアを金冠にちりばめたフランス皇太子人形。
イプソンの遺言により人形コレクションは競売され、その収益で孤児のための基金が作られることになっていたが、競売の前にクリスマスの前日にナッシュ・デパートで一般の供覧に供することが条件だった。
高価な人形をクリスマス前の混雑するデパートで人目にさらすなど、盗んでくれと言っているようなものだが、案の定コーマスと名乗る正体不明の怪盗から、皇太子人形を盗むとの予告があった。
この話をイプソンの遺言執行人の弁護士から聞いたエラリーは、クイーン警視やヴェリー部長と共に厳重な警戒をしいた。エラリ−始め衆人環視の中にあった人形だったが、閉店直後調べてみるといつの間にかコーマスのより偽者に摺りかえられていた。

世に不可能事なし     Nothing is Impossible
クレイトン・ロースン
アマチュア・マジシャンであり、EQMMの編集長を勤めたロースンは、作家としての活動期間は短く、作品数も決して多くないが、カーとともに不可能犯罪に情熱を燃やした作家である。


空飛ぶ円盤に興味を持ち、それに関する私設事務所まで開いた男アルバート・ノースのゴーストライターを勤めることになったハートは、元奇術師グレート・マーリニを伴ってノースの事務所を訪問した。
事務所でハートとマーリニは、ノースと娘婿のチャールズ・ケインとに挨拶を交わし、ノースとケインはオフィスに入った。少しして部屋の外にいたハートとマーリニはオフィスの中から銃声がしたのを聞く。
オフィスに入ろうとするが室内から鍵が駆けられ開かない。マーリニの万能鍵を使ってドアを開け、オフィスに入ると椅子に座って机に突っ伏したノースの姿がまず目に入った。
そして床には素っ裸にされたケインが頭を殴られて倒れていた。ケインはすぐに気づき、命に別状はなかったが、ノースは耳に32口径の弾を撃ち込まれて絶命していた。
だが部屋の中からは拳銃は見つからず、部屋から出て行った者もいない。ケインの証言では誰かが頭を殴ったのは確かなのだが…

うぶな心が張り裂ける     His Heart Could Break
クレイグ・ライス
酔いどれ弁護士ジョン・J・マローンを創造したライス女史のデビュー作品。


弁護士ジョン・J・マローンが弁護を引き受けたのはポール・パーマー。泥酔して帰宅し、財産を管理している叔父を射殺したとして起訴されたが、マローンの活躍で裁判は一旦打ち切られ、身柄は刑務所に収監されていた。
マローンが、そのパーマーに面会に来たとき、パーマーの独房から騒ぎが起きた。パーマーが房の中で綱で首を吊って自殺したのだ。看守やマローンが駆けつけたときにはまだ息があり「切れなかった」とつぶやき、直後に息絶えた。
マローンは事件は殺人だと決め付け、誰がどうやって綱を独房にいれ、パーマー自ら死を選ぶようにしたか突き止めると宣言した。

犬のお告げ     The Oracle of the Dog
G・K・チェスタートン
本編はブラウン神父の不信に収録の古典的作品である。チェスタートン及びブラウン神父がミステリの世界に残した足跡は計り知れないものがある。


ブラウン神父がファインズ青年の話を聞き推理するアームチェア・ディテクディブもの。
「ドルース大佐が殺されたあずまやには入口が一つある。おもやに達する庭の中央路の終点にある入口であるが、犯行時にはこの通路と入口は人目にさらされていた。庭の中央路は二列の高いひえんそうの間を通る小道であり、ひえんそうはぎっしり植えられてあるので、一歩でも小道から踏み出せば足跡がつかぬはずがない。さの小道も植物もあずまやの入口まで続いているから、この真っ直ぐな小道からそれたものがあれば人目につかずにはいられず、この小道以外にはあずまやへはいる道は考えられない」という密室状況でドレース大佐は殺された。
大佐は白い上着を着て籐椅子にかけているところ後ろから鋭い刃物で刺されており、凶器は発見されなかった。

囚人が友を求めるとき     When a Felon Needs a Friend
モリス・ハーシュマン
刑務所に服役したアーヴィング・シャイナーという詩の好きな男。房のほかの囚人に詩の朗読会を聞きに行きたいと常に呟いていた。
そしてある夜のこと、就寝前の点呼でシャイナーの姿がなかった。刑務所内は大騒ぎになたったが、翌朝シャイナーは房内のベッドで寝ていた。聞くとシャイナーは詩の朗読会に行っていたという。
そして暫くたつとまた同じようなことが。シャイナーはどうやって刑務所を抜け、どうやって帰ってくるのだろうか?そして所内の連中がシャイナーに目をつけ、俄に詩に興味を持ちだした。

ドゥームドーフの謎     The Doomdolf Mystery
メルヴィル・デヴィッスン・ポースト
ポーストの生み出したアンクル・アブナー(アブナー伯父)は、開拓時代のアメリカを舞台に活躍し、その作品は全て短篇である。その中でもこのドゥームドルフの謎は一、二を争う傑作とされる。


ヴァージニアの山脈の奥地に流れついたドゥームドルフという男、やせた土地に丸太小屋を建て、蒸留所を造り酒を自ら製造した。怠け者や身持ちの悪い連中が、その酒を目当てにドゥームドルフのもとを訪れた。
アブナー伯父とランドルフ治安官が取り締りに乗り出し、ドゥームドルフの小屋を訪れると、ドゥームドルフは小屋の中で胸を射抜かれて死んでいた。ドアには内側から閂がかけられ、窓も内側から錠がかかり、さらに埃が積もっていて開け閉めした形跡はなかった。さらに凶器の銃は壁の銃架に架けられていて、自殺とは考えられなかった。
犯人は密室のドゥームドルフをいかにして射殺したのか…

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男     The Man Who Read John Dickson Carr
ウィリアム・ブルテン
ウィリアム・ブルテンはホックと並び短篇の名手で、「〜を読んだ男(女)」のシリーズとハイスクール教師のストラング先生を探偵役とするシリーズがあります。「〜を読んだ男(女)」のシリーズは全てパロディで、特に本篇は発表当時に反響を呼んだ傑作。


エドガー・ゴールドがジョン・ディクスン・カーを知ったのは12歳のときであった。以来この密室の巨匠といわれる作家を尊敬してきたエドガーは、今回叔父を殺すにあたって密室殺人事件とすることにした。
毎週恒例のブリッジのとき、証人のいる前で叔父を密室状態にした書斎で殺すのだ。出入りできるのはドアだけ。そのドアに内側から閂を掛け、暖炉の煙突を伝って脱出するのだ。そのために暖炉の煙突の中をピカピカに磨いた。
当日は白い服を着て煙突から脱出し、屋根の上から薬品を落として暖炉に火をつける。暖炉の火と汚れていない白い服を証人に見せれば、エドガーが暖炉から出たとは誰も思うまい。ただ秘密の通路のような暖炉を使うことだけが、巨匠に申し訳なかったが、背に腹は換えられない。
当日、ブリッジに来た2人の客の前で、殺人を演じ、暖炉を抜け出、火をつけたまではよかったが…

長い墜落     The Long Way Down
エドワード・D・ホック
ホックは短篇の名手として知られ、サム・ホーソーンやレオポルド警部、怪盗ニックなど多くのキャラクターを生み出した。そして、キャラクターたちは多くの不可能犯罪を扱った。本篇はノン・シリーズであるが、不可能犯罪物の秀作。


マンハッタンに聳え立つジュピター・スティールの本社ビル。その21階は重役専用のフロアで、間もなく重役会議が行われることになっていた。 ワンマン経営者のカーン社長は会社の合併を決め、その決定を最終的に重役会議に諮るべくその会議は開かれるはずだった。その日は霧が濃く会議開始予定の午前10時近くなっても、ビルの10階以上は霧に包まれていた。
以前にカーン社長は株主に襲われて以来極端に用心深くなり、警備責任者のマクラヴもカーン社長の要請でいつも重役会議に同席することになっていた。その日も会議開始予定の少し前にマクラヴが21階に姿を見せた。
ちょうどその時に会議室のドアが閉まり、ドアに向かって秘書が社長の名を呼んだ。直後に会議室の中からガラスの割れる大きな音が響いた。ドアを開けると会議室正面の大きなガラスが割れていて、室内に人の姿はなかった。カーン社長が飛び降りたのだった。
ところがマクラヴが1階に急行するとカーン社長の姿はなく、ビルの前で交通整理を していた巡査も誰も飛び降りたりはしていないと言った。 ビルの壁面は各階全てガラス張りで平らであり、途中に引っかかるところもなく、 窓の開閉は出来なかった。 屋上には雪がうっすら積もり鳥の足跡以外は見つからなかった。カーンは霧の中に消えてしまったのだ。
そしてカーンの死体が地上に落ちてきたのは霧が晴れ始めた午後1時45分。飛び降りてから3時間45分たっていた。死因は高所からの墜死だった。まさにカーンは長い墜落をして死んだのだった。

時の網    Time Trammel
ミリアム・アレン・ディフォード
悪魔と契約し時間の中を旅行する機械=タイムマシンを作ったヘンリー・アルブレヒト。タイムマシンは完成しそれを使って密室から消えたアルブレヒトに悪魔は契約の履行を迫った。だが…
本格作品ではなくSF的な短い作品。

執行猶予    Reprieve
ローレンス・G・ブロックマン
短篇で有名な米作家だそうです。特にシリーズ探偵のコフィー博士は、ソーンダイク博士の後継者といわれているそうです。


アブラクサス探偵事務所を訪ねたキャサリン・バーストウの依頼は、父親のジョン・バーストウの居所を探って欲しいということだった。ジョンは5年前に女優と駈け落ちをして行方がわからなくなったが、キャサリンの卒業式にその姿を見せたのだという。
事務所の探偵ロデリック・ポプラーは依頼を引き受け、キャサリンは帰っていったが、入れ替わりにキャサリンの母親ローラが現れた。ローラはすでに別の男と再婚していた。そして今朝ジョンからの手紙が届いたという。
ローラはキャサリンが出かけるのを見て、ジョンとキャサリンが連絡を取り合っているかもしれないと考え、キャサリンの跡をつけてきたのだといった。
ローラの持ってきたジョンからの手紙には住所があったので、ポプラーはローラとともにジョンの手紙に書かれたアパートに行った。
ところがそこでは鍵とチェーンが内側から掛けられた部屋の中で、ジョンがガス中毒で死んでいた。中毒死してからはかなり経っているらしかったが、部屋の中にガスの匂いはせず元栓も閉めてあった。
自殺したのならガスの元栓が閉まってているはずはない。とするとこれは殺人…

たばこの煙の充満する部屋    The Smoke-Filled Locked Room
アンソニイ・バウチャー
H・H・ホームズ名義でもミステリを書いたバウチャーは、作家としてより評論家・編集者として有名で、評論活動において三度もエドガー賞を受賞しているほど。


前州知事で政党の実力者スティヴン・ダロウが、ホテルの部屋で喉を切り裂かれた死体となって発見された。その日のダロウは同じホテルので政党の委員会に出て、秘書兼愛人の部屋に戻り、その後自室に向かった。
ダロウが自室に入るのはホテルのメイドに目撃され、数分後には秘書が追いかけるように部屋に入り、ダロウの死体を見て金切り声を上げたのだ。
その間メイドは、扉から目を離さなかったし、扉からは誰も出て行かなかったと証言した。ダロウの死体はバスルームにあり、凶器は剃刀のようなもの。しかし凶器は部屋のどこからも見つからなかった。事件は密室殺人の様相を呈してきた。

海児魂    Bones for Davy Jones
ジョゼフ・カミングズ
アメリカの作家で密室、人間消失などの不可能犯罪を扱った短篇を発表しているそうです。本編は海の密室とも言うべき事件を描いています。


マサチューセッツの沖合いで、濃霧の中に起きた海難事故。マーシャル・カーウェン所有の高速ヨットヨナ号が暗礁にぶつかり、あっという間に沈没したのだ。
すぐに側にいたあほう鳥号の船長トム・ペッパーがこの事故を目撃、生存者がいないことを確認すると岸にとって返した。マーシャルに連絡すると本人は家にいて、ヨナ号に乗って出たのはマーシャルの妻らしいということが判明。
マーシャルがトムのもとに潜水服を持って駆けつけ、他の応援とともにヨナ号の沈没現場に向かった。マーシャルが潜水服を着て潜ったが、いつまでたっても上がってこない。不審に思って引き上げてみると、マーシャルは海の中で刃物で刺されて殺されていた。
沈没した船に幽霊でもいたのだろうか?それとも人間の仕業なのか?

北イタリア物語    The Fine Italian Hand
トマス・フラナガン
非常に寡作な作家で、ミステリとしては短篇が7編しかないといわれています。本編はフラナガンのデビュー作で1948年のEQMM誌の最優秀新人賞受賞作です。


15世紀イタリアを治めるボルジア大公はフランスに従属することを決め、その証として宝石をフランス王に送ることにした。その役目を北イタリアの領主モンターニョ伯爵に託し、モンターニョ城にはフランス国王の使者ヴィルフランシュ侯がやって来た。
宝石は城の宝物室に納められ、その扉は厳重に閉ざされ、扉の前には2人の番兵がいたが、何者かが忍び込み、番兵の一人を殺し、一人を気絶させて、中の宝石を奪い去ってしまったのだ。
モンターニョ伯爵はさっそく犯人の探索に乗り出したが…
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